この記事では、個人事業主としての廃業を検討している方々に向けて、廃業届の書き方や提出期限、必要な書類などを詳細に解説します。
廃業手続きは複雑で、手順を誤ると税務上の不利益を被る可能性がありますが、本記事を読むことで、正しい方法で廃業届を作成・提出し、不要なトラブルを回避することができるでしょう。
将来の不安を軽減し、安心して次のステップに進みたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
廃業届とは
廃業届とは、個人事業主が事業を終了する際に、国や都道府県に対して「事業をやめた」という事実を通知するための書類です。
国や都道府県は、個人事業主が事業を続けているかどうかを自動的に把握する術をもっていません。そのため、開業届や廃業届といった書類の提出を通じて、はじめて事業の開始や終了を知るのです。
高齢や病気、家庭の事情、売上減少など、いかなる理由であっても、廃業届を提出しない限り、税務上では事業が継続しているとみなされ、不要な税務処理や負担が生じる可能性があります。
そういった面からも、廃業届は必ず提出しなければならない書類なのです。
廃業届はいつまでに出すの?
廃業届の提出期限は、所得税法229条に「事業を廃止した日から1か月以内」と定められています。
しかし、廃業後も仕事場の片づけや整理など、さまざまな支出が発生することがあるでしょう。これらの支出は、本来であれば事業に関係する経費として認められるべきものですが、所得税の観点からは、廃業後の支出については経費として認められない場合があるため注意が必要です。
そのため、事業に関係する支出が見込まれる場合は、できるだけ廃業前に処理を済ませましょう。そうすれば、税務上の不利益を避けることができます。
なお経費については、所得税法第63条に「廃業に伴う必要経費に関する特例」が定められており、詳しく知りたい方はこの規定を参照すると良いでしょう。
青色申告を行っている場合は、廃業届と同時に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も税務署に提出する必要があります。これは、事業を廃止しようとする年の翌年3月15日までに提出しなければなりませんが、通常は廃業届と同時に提出するのが一般的です。
廃業届の出し方・書き方
廃業届を正しく提出するために、各記入欄の書き方を知っておきましょう。
以下で、具体的な記入方法について詳しく解説します。
各記入欄の書き方
まず、書類の上段には「納税地」や「氏名」「職業」「屋号」などの基本情報を記入します。
中断からの項目は、以下の表でみていきましょう。
項目 | 書き方 |
届出の区分 | 「廃業」にチェックをつけます。 (事由)の右側に「業績不振により事業の継続が困難であるため」など、事業を廃業する具体的な理由を記入します。 |
所得の種類 | 現在の事業で得ている所得にすべてチェックを入れます。 事業全体を廃業する場合は、右欄の「全部」にもチェックを忘れずにつけましょう。 |
開業・廃業等日 | 廃業した日付を記入します。 |
廃業の事由が法人の設立である場合 | 廃業の理由が法人設立による場合、法人の名称や本店所在地を記入します。 |
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 | 廃業届と同時に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」や「消費税の事業廃止届出書」も提出する場合は、該当する項目の「有」にチェックを入れます。なければ「無」に入れます。 |
廃業届を撤回したい場合は?
廃業届を撤回したい場合、特定の様式が定められているわけではありませんが、主に自分で撤回届または取下書を作成し、所轄の税務署に提出します。
そうして、税務署長の承認を得ることが必須です。
撤回届には主に「提出日」「提出した届出名」「撤回の理由」などを記載します。
もし廃業届を提出してから時間が経過していて、事業を再開したい場合には、新たに開業届を提出するしかありません。
その際、所得税の青色申告の取りやめ届出書も一緒に提出していた場合は、これも再度申請しなおします。
しかし、廃業時に青色申告の取りやめ届出書を出していなかった場合は、青色申告の承認が引き続き有効になっていることもあるため、確認してみるといいでしょう。
いずれの場合も、可能な限り早い提出をこころがけることが重要です。
廃業届に必要なもの
通常、廃業届を提出する際、ほかに必要なものはありません。
しかし、個人事業主が廃業する場合は、状況に応じて以下の表にある書類を提出する必要があります。
提出が必要な書類 | 対象者 | 提出先 | 提出期限 |
各都道府県税事務所への廃業の届出書類 | すべての個人事業主 | 都道府県税事務所 | 提出先による |
青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告をしている場合 | 所轄税務署 | 廃業した翌年の3月15日 |
事業廃止届出書 | 消費税納税事業者 | 所轄税務署 | 廃業日から1カ月以内 |
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書 | 予定納税をしている場合 | 所轄税務署 | 廃業した年の7/1~7/15、または11/1~11/15 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 給与を支払っている場合 | 所轄税務署 | 廃業日から1カ月以内 |
各都道府県税事務所への廃業の届出書類
個人事業主の場合、所轄税務署に廃業届を提出した後、各都道府県税事務所にも廃業の届出が必要です。
使用する書類の様式や提出期限は、都道府県によって異なります。例えば、東京都では廃業日から10日以内、神奈川県は1カ月以内、大阪府は「遅滞なく」です。
自身がいる地域の期限がわからない場合は、早めに手続きを行う地域の税事務所のホームページなどで確認してください。
期限以外の要件も知ることができますので、ミスなく手続きを進めることができるでしょう。
青色申告の取りやめ届出書
青色申告をしていた個人事業主は、廃業時に「青色申告書の取りやめ届出書」を所轄税務署へ提出する必要があります。
提出期限は、廃業した翌年の3月15日までですが、廃業届と同時に提出するのが望ましいでしょう。
そうすることで、廃業手続きを一度に済ませることができるだけでなく、後の確定申告時に余計な手続きを増やさずに済みます。また、早期に提出すれば税務上のトラブルにも対応しやすくなるでしょう。
事業廃止届出書
消費税の課税事業者である個人事業主は、廃業届と併せて「事業廃止届出書」を1カ月以内に提出する必要があります。
対象となるのは、前々年の課税売上高が1,000万円を超えた場合や、前年の1月1日から6月30日までの間に課税売上高と給与支払額がそれぞれ1,000万円を超えた場合です。
消費税の課税義務を適切に終了させるためにも、忘れずに提出し、税務上の義務を確実に果たしましょう。
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
所得税を予定納税している個人事業主は、廃業時に「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」を提出することで、予定納税額の減額や免除を受けることができます。
この申請を行わなかった場合、通常通り税務署が計算した予定納税額を納める必要がありますが、後日確定申告によって過剰に納めた税金は還付されるため、取り返しがつかないわけではありません。
適切な手続きを行うことで、無駄な支出を避けましょう
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員に給与を支払っている個人事業主は、廃業時に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を所轄税務署に提出する必要があります。
提出期限は廃業日から1カ月以内です。
廃業届と一緒にこの書類も持参または郵送することで、提出忘れを防ぐことができるでしょう。
廃業届を提出するデメリット
廃業届を提出するデメリットには、以下の3つが考えられます。
- 個人事業主としての事業が継続できなくなる
- 資産売却の際に在庫などの商品価値が大きく下がる可能性がある
- 取引先も廃業するリスクがある
なかでも、個人事業主としての事業を継続できなくなることが最大のデメリットといえるでしょう。
また、廃業することで取引先の売上が減少し、その結果として取引先までも廃業に追い込まれてしまうリスクがあることには注意してください。
まとめ
廃業届は、個人事業主が事業を終了する際に必ず提出しなければならない書類で、国や都道府県に対して事業の終了を正式に通知するためのものです。
適切に提出すれば、税務上の問題を避けることができます。
しかし、事業継続が不可能になるというデメリットもあります。また、取引先への影響や資産の価値低下など、廃業の際に発生するさまざまなリスクも無視できません。
もし廃業を考えている場合、ほかの選択肢としてM&Aも検討してみてはいかがでしょうか。
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