【ストックオプションとは】株式報酬の仕組みとメリットを解説

【ストックオプションとは】株式報酬の仕組みとメリットを解説

インセンティブ制度として、ストックオプションが注目されています。

2021年時点の東京証券取引所の調査によると、上場企業の約3割がストックオプションを導入しています。特に、成長可能性を有する企業の育成支援を目的としていた旧マザーズ市場では、85%の企業が導入しており、成長企業や新興企業、IPOを目指す企業にとってストックオプションが有効な手段として採用されていることがわかります。

本稿では、ストックオプションの仕組みやメリット・デメリット、税金や注意点などについて解説します。

ストックオプションとは

ストックオプション(SO: Stock Option)は、将来の株価上昇を見越して、従業員や役員があらかじめ定められた価格で自社株式を取得できる権利、またはその権利を利用したインセンティブ制度を指します。

この制度は米国で誕生し、1960年代に技術企業や成長企業に広く普及し、その後、他の産業や国にも広がりました。日本では1997年の商法改正に伴い、会社法上の制度として認められました。その後、1999年の東証マザーズの設立などがきっかけとなり、ストックオプションを導入する企業が増えました。

定義と仕組み

ストックオプションは、会社法上の新株予約権の一種であり、役員や従業員などへの職務執行の対価として発行することができます。

ストックオプションを得た従業員などは、権利行使価格(株式を購入できるあらかじめ決められた金額)よりも取引価格が高くなった時点を自らの裁量で見極め、権利行使価格で株式を取得し、さらにその株式を市場などで売却することで差額を利益(キャピタルゲイン)として得ることができます。

売却時の株価が権利行使価格よりも高ければ高いほど利益が増えるため、IPOを控えたスタートアップ企業やベンチャー企業などが、優秀な人材を確保するインセンティブとして活用することがあります。

新株予約権との違い

ストックオプションは新株予約権の一種ですが、次のような項目において相違点があります。

新株予約権ストックオプション (SO)
発行主体会社が株主に対して発行企業が従業員や役員等に対して発行
対象者株主従業員や役員(社外関係者への付与も可能)
権利の種類将来的に発行される株式を取得する権利既存の株式を定められた価格で取得する権利
行使価格の決定株式の発行時に決定ストックオプション付与時に低めに設定
利用目的将来的な資本調達や自己資本増強のため従業員や役員等のモチベーション向上や報酬として利用

このように、ストックオプションは新株予約権の一種でありながらも、対象者や方法の違いによって、もたらす結果に違いがあります。

ストックオプションの種類

ストックオプションは、付与される際に課税されるかどうかによって、「無償ストックオプション」と「有償ストックオプション」に分類されます。

さらに、「無償ストックオプション」は、権利行使によって株式を取得した際に給与課税が行われるかどうかによって、「税制適格」と「税制非適格」に分かれます。

「税制適格」の場合、一定の条件を満たすことで給与課税を免れることができます。「税制非適格」の場合は給与課税が行われます。

無償ストックオプション

「無償ストックオプション」とは、役員や従業員に対して、発行時に無償で付与されるストックオプションのことです。しかし、税制上は給与としてみなされるため、特例措置を受けない場合、最大約55%の給与課税が適用されます。また、株式売却時には、最大約20%の譲渡課税(所得税+地方税)が課されます。

有償ストックオプション

「有償ストックオプション」は、役員や従業員がストックオプション1個あたりに金額(発行価格)を支払って入手するストックオプションのことです。従業員が金融商品として有償で取得するため、権利行使時に給与課税は発生しません。ただし、株式を売却する際には、最大約20%の譲渡課税(所得税+地方税)が課されます。

税制適格と税制非適格

無償ストックオプションは、さらに「税制適格」と「税制非適格」に分かれます。「税制適格」は、株式購入時に最大55%の給与課税が適用されますが、租税特別措置法第29条の2の要件を満たすことで免税となります。要件が厳しいため、「税制適格」で設計していたが、結局適用されなかった場合もあるようです。「税制非適格」は、この特例措置の適用を受けず、給与課税が適用されます。

このように、区分によってストックオプションの税務上の取り扱いが異なります。ストックオプションを導入する際には、税務の観点からも慎重に検討する必要があります。

ストックオプションの仕組み

ストックオプションは、権利を付与された段階では直接的な利益を得ることはできません。利益を得るためには、ストックオプションを一定の期間内に行使して株式を取得し、その株式を売却することが必要です。その結果、得られる差額(キャピタルゲイン)が利益となります。この手続きは従業員や役員が自らの裁量で行う必要があります。

さらに、ストックオプションの発行時には、権利行使に関する特定の条件を設けることが一般的です。これにより、企業は権利行使を適切に管理し、組織の利益や目標に合致するように調整することができます。

ストックオプション制度を導入するメリット

ストックオプション制度を導入するメリット

企業がストックオプションを導入する主なメリットは、以下の通りです。

優秀な人材の確保と定着化

ストックオプションは人材採用の際の魅力的な要素となります。従業員や役員に、企業の成長に直接参加できる機会を提供することで、将来の株価上昇による利益を享受することができます。そのため、企業の成功に貢献するモチベーションが高い人材を集めることができるでしょう。

また、ストックオプションは発行時に、すぐに退職されないよう行使できる期間や方法に制限をかけることができます。従業員にとっては、長期的な視点で企業の成長に参加でき、安定的に持続可能なキャリアを構築できる安心材料となるでしょう。

従業員のモチベーション向上

ストックオプションの付与により、従業員は企業の株主としての意識を持つことができます。企業への貢献が自らの資産価値を直接向上させることにつながるため、モチベーションの高まりが期待できるでしょう。また、このような共通の利益を持つことで、従業員同士のチームとしての結束力が高まり、社内の一体感を醸成する可能性があります。醸成された一体感は、生産性の向上や企業の目標達成にも貢献するでしょう。

社外協力者との長期的な関係構築

従業員や役員だけでなく、外部の顧問やコンサルタント、パートナー、投資家など、企業と直接雇用関係のない人々にもストックオプションを付与することができます。これにより、企業とのパートナーシップを強化し、共同で成長や成功を目指すための手段となります。また、外部の顧問やコンサルタントに対して、企業の成果に応じてストックオプションを付与することで、彼らの業績や貢献度を正当に評価し、それに見合った報酬を提供することができます。

外部に対するストックオプションの付与は、通常は企業のポリシーや規制、契約条件によって制限されます。また、付与されるストックオプションの量や条件は、従業員や役員に対するものとは異なる場合があります。

ストックオプション制度を導入するデメリット

一方で、ストックオプションの導入に当たり、次のようなデメリットも想定されます。

株価下落によるモチベーション低下

ストックオプションは株価が上昇することで利益を得る仕組みのため、株価が下落したり、思うように株価が上がらなかったりすることで、企業の将来の成長や安定性に対する懸念を生み出し、従業員のモチベーションを低下させる可能性があります。

付与基準の不明確さによる不公平感

企業の公平性や透明性を確保し、従業員や役員のモチベーションを維持するために、ストックオプションを付与する際の明確な基準を定めることが重要です。例えば、役割や職位に基づく付与、個人やチームの業績に応じた付与、勤続年数などが考えられます。

権利行使後の従業員離職

ストックオプションに何も行使条件をつけない場合、従業員が企業の想定している業績や目標を達成する前に権利を行使し、退職する可能性があります。

既存株式の希薄化

企業がストックオプションを従業員や役員に付与することで、発行済株式数が増加し、株主の保有する株式の割合が希薄化することがあります。株主の持分割合が希薄化することで、株式の価値が薄められ、株主の権利や利益が低下し、また企業の株価に影響を与える可能性があります。

導入に適した企業

インセンティブとしてさまざまな活用の可能性があるストックオプションですが、どのような企業が導入に向いているのでしょうか。一般的に、将来的に高い成長が見込める企業、つまりIPO(新規上場)を目指す企業は、ストックオプション導入に向いているとされています。

ベンチャー企業・上場を目指す企業

起業時に高額な給料や福利厚生の提供が難しいベンチャー企業にとって、ストックオプションは優れた人材を確保する有益な方法となるでしょう。将来の株価上昇による報酬の見込みが、積極的に業務に取り組み、企業の成長に貢献しようとする人材を惹きつけるでしょう。

上場企業

すでに株式を上場している企業においても、ストックオプションは人材確保や従業員の定着に有用な手段となるでしょう。例えば、特定の目標やKPI(Key Performance Indicators)の達成に対して、ボーナスとしてのストックオプションの提供や、長年勤務している従業員や役員への報酬、重要なプロジェクトに携わる管理職や従業員に対して、追加の報酬やインセンティブとして活用することができます。

導入から権利行使までの手順

導入から権利行使までの手順

次に、ストックオプションの導入から、従業員等による権利行使までの流れをご紹介します。

制度導入の決定

ストックオプションの導入は、専門家への相談を踏まえ検討することがおすすめです。上場企業によるストックオプションの発行の場合、財務局や証券取引所の事前確認を行わなければいけない場合があるなど、企業ごとに手続きや、メリット・デメリットが違います。専門家に自社の状況に応じたアドバイスを受けて、実際の導入可否を検討しましょう。

新株予約権の内容決定

ストックオプションの発行には、株主総会の特別決議により、募集新株予約権にかかわる次の事項を定める必要があります。会社法第238条に定められた募集要項の主な内容は次のとおりです。

  • 募集新株予約権の内容・数
  • 無償発行の場合にはその旨
  • 1個あたりの払込金額またはその算定方法
  • 割当日
  • 払込期日を定めるときは、その期日

ただし、公開会社の場合は、取締役会決議で決定できる場合もあります。

付与対象者と割当数の決定

募集事項が決まったら、次に、割当対象者や割当数を決めます。ストックオプション発行の通知・公告は、割当日の2週間前までに、有価証券届出書など金融商品取引法で規定される届出を提出する必要があります。また、募集事項の決定を取締役会決議で行った場合には、割当日の2週間前までに、株主に対し募集事項を通知、もしくは公告する必要があります。

また、割当にあたっては、企業と引受者の間で、新株予約権の割当契約を締結します。

新株予約権原簿の作成

割当が決まったら、新株予約権原簿を、発行日の翌日以降遅滞なく作成します。新株予約権原簿には、会社法第249条に定める事項(新株の数、割当先、割当価格、割当日など)を記録します。上場企業の場合は、ストックオプション発行に関する適時開示を行います。また、ストックオプションによって発行される株式の登記が必要です。

従業員による権利行使

ストックオプションを得た従業員や役員等は、税制適格ストックオプションの場合、ストックオプション口座の開設が必要です。(税制非適格ストックオプション、有償ストックオプションは不要)権利を行使する際には、発行会社が指定する口座へ、ストックオプションの行使価格を振り込んで自社株式を購入します。

また、ストックオプションの権利行使の条件に留意しましょう。最近は、上場後間もないSO行使、およびその後の早期退職を防止する目的で「ベスティング条項」を設ける企業が増加しています。

ベスティング条項事例

  1. 権利付与後、一定期間ののち、権利行使が認められる
  2. 権利付与後、一定期間を経過するごとに、権利行使が認められる株式割合が増える

自社株売却によるキャピタルゲイン

ストックオプションは株式の購入と売却によって利益を得る仕組みですが、株を購入した後もすぐに売却する必要はありません。株価が上昇したタイミングで株を売ることでキャピタルゲインがより大きくなる可能性があります。

また、無償ストックオプションの場合には、ストックオプションが付与された際の株価よりも下がっていても、権利を行使しなければ損をすることはありません。

この際、権利の失効条件にも気を付けましょう。主に以下3つの条件で権利が失効することがあります。

  1. 行使期間の超過
  2. 自身の退職
  3. (設定されていれば)業績条件の未達

具体的な内容は企業によって異なるため、権利付与時によく確認する必要があります。

導入時の注意点

次に、企業が導入を検討する時に、留意しておきたいポイントをご紹介します。

持分比率で検討する

ストックオプションの発行は、株数ではなく持分比率(発行済み全株式に対して対象者が所有する株数の割合)で検討します。ストックオプションの比率(潜在株式比率)が高すぎると、株式価値が薄まることで既存株主の資産価値を損なう可能性があります。そのため、ストックオプションの発行数が不適切な場合、既存の株主が大量に株式を売却し、株価が急落することも考えられます。このような事態を招かないために、証券会社の指導等によりストックオプション比率はおおよそ10%以内、高くても15%以内となるように調整されることが多いようです。

付与条件の明確化

ストックオプションの付与基準は明確にしましょう。付与基準が明確でないままストックオプションを運用すると、従業員に不公平感が広がり、モラルや士気が低下するおそれがあります。さらに、この状況は従業員同士の関係性を損なう可能性もあるため、ストックオプションの運用には十分な注意が必要です。選定基準に特に法的定めはないため、会社独自に業績貢献度など、客観性及び透明性を満たす条件を誰でも確認できるように整備しましょう。

税制適格・非適格の違い

無償ストックオプションを設定する場合、税制適格か非適格で行うかのメリット・デメリットを確認しましょう。

「無償税制適格ストックオプション」は、付与対象者や行使期間などに関する厳しい適格要件を満たすことで、権利行使時の税制優遇措置を受けることができるストックオプションの1種類です。無償で付与を受けているため、給与扱いとなり、そのままでは権利行使時に最大55%の給与課税を受けてしまいます。これに対し、権利行使時に税制優遇措置を受けられないものが「無償税制非適格ストックオプション」です。

いずれも売却時には譲渡課税20%が課税されます。課税されない「無償税制適格ストックオプション」が魅力的ですが、厳しい適格要件をクリアするための事務負担を勘案して検討すべきでしょう。

まとめ

ストックオプションは、従業員や役員、社外協力者に対する効果的なインセンティブとして有効な方法です。これにより、企業の業績向上や株式価値の向上が促進され、彼ら自身の資産価値も向上します。その結果、従業員などのモチベーション向上につながります。

一方で、ストックオプションの導入や運用には注意が必要です。まず、付与基準の曖昧さは社内で不公平感を生み、士気の低下につながります。さらに、株式が上場するとすぐに権利を行使し、退職が相次ぐ可能性があるため、権利行使の条件には配慮する必要があります。また、既存の株主との利益配分にも留意する必要があります。さらに、税制対策は企業ごとに異なるため、慎重に検討する必要があります。

これらの要件を総合的に判断するために、ストックオプションの導入や運用には専門家のアドバイスが欠かせません。

著者

MABPマガジン編集部

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