M&Aなどでよく耳にする「のれん」や「のれんの減損」という言葉。一体どのようなものか、ご存じですか?のれんとは、企業価値のうち、個別資産として識別できない無形固定資産を表す言葉で、M&Aを実施する際などに企業の価値を正しく理解するために欠かせないものです。
今回は、のれんの意味やのれんの減損の会計処理方法、のれんの減損が企業に与える影響など、「のれん」について詳しくご紹介します。
目次
1.のれんとは
のれんとは無形固定資産のことを指します。企業には帳簿上に現れる資産以外にも、「知名度」、「ブランド」、「従業員」、「組織力」、「技術資産」、「ノウハウ」、「顧客」、「取引先」など、目に見えない資産価値があります。そのため、会社の時価純資産評価額と、これまで事業が築き上げてきた財産が持つ価値に差が生じるのは当然のことです。この差額を会計上では「のれん」といいます。
例えば、ある会社Aが会社Bを買収したとします。会社Bの純資産は10億円ですが、会社Bが持つブランド力を評価して12億円で購入したとします。この2億円の差額が「のれん」となります。
2.のれん減損の意味と要因
「のれんの減損」とは、のれんの価値を下方修正することを示します。M&Aの際、買収した会社の業績悪化や経営統合失敗などにより、会社の価値が下がってしまうケースがあります。期待していたのれんの価値が失われると、計上したのれんの価値を正しい価値に修正しなければなりません。
よく似た言葉に「のれんの償却」がありますが、これは無形資産も年数が経過するごとに失われるという考え方により、一定期間にわたって減価償却することを表す言葉です。会計上はどちらも企業の資産価値を下げるものですが、損金になるか否かという違いがあります。
のれんの減損は、本来の価値よりも会社を高い価格で買収したことになり、M&Aにおいては失敗を意味します。買収する企業にとっては、できるだけ回避したい事態です。
3.のれん減損の会計処理
のれんの減損を行う時、会計上はどのような処理が必要なのでしょうか。
減損の判断基準や計算方法、会計の処理方法など、のれんの減損方法について解説します。
減損の判断基準
のれんの減損は、M&Aの際にのれんを計上し、そののれんが実際には回収できないと判断された時に行います。日本の会計基準では、「のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる」と定められています。
のれんの減損が起こる兆候としては、
- 営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナス
- 使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化
- 経営環境の著しい悪化
- 市場価格の著しい下落
などが挙げられます。近年は、新型コロナウイルスによる業績の影響によって、のれんの減損が多く発生しました。
減損損失の算定方法
のれんの減損は、「減損損失」として処理を行います。イレギュラーな仕訳となるため、特別損失を使用するケースがほとんどですが、営業外費用として処理されることもあります。
減損損失の算定は、のれんとして計上していた額から、減損したい額を引いて行います。例えば、M&Aの際にのれんとして1,000万円計上したものの、経営環境が悪化したため700万円に減損したい時は、
1,000万円-700万円=300万円
を減損損失とします。
減損損失の会計処理
減損損失の算定で算出されたのれんの減損は、会計上では以下のような処理を行います。
借方 | 貸方 | 摘要 |
減損損失 ¥3,000,000 | のれん ¥3,000,000 | のれんの減損処理 |
このように、会計上では損金として処理できるのれん減損ですが、税務上では損金として認められないことが多いようです。税金の減額も期待できないため、企業にとっては大きな負担となります。
4.のれん減損と株価への影響
のれんの減損を行うと、株価や企業価値に影響を与えると言われています。
以下に、のれんの減損が会社に与える影響について、詳しく解説します。
のれん減損が企業価値に与える影響
のれんの減損を行うと、企業の資産価値が減少します。それに比例して、企業価値も下がる可能性が高くなり、併せて株価も下落することが懸念されます。また、のれんの減損は特に株主への配当に大きな影響を与えます。株主への配当は、当期純利益から拠出されるのが一般的です。しかし、のれんの減損が行われると純利益が減少し、当然配当額も少なくなります。
のれん減損による株価下落リスク
のれんの減損を行うと、計上された分だけ特別損失が発生します。すると、当期の純利益が目減りし、株価にも影響を与える可能性があります。
株価は
純利益÷発行済株式数×PER(株価収益率)
を目安に指数が算出されます。当然、純利益が下がると、株価指数も減少します。
5.のれん減損の具体事例
のれんの減損が行われるということは、M&Aの失敗を意味します。企業側が受ける影響も大きく、会社としては大きなマイナスとなります。
以下に、実際にあったのれんの減損の事例を紹介します。
国内外の有名企業のれん減損事例
ベネッセホールディングス
2020年3月期の決算で、ベネッセホールディングスはのれんなどの減損損失計上を発表しました。特に影響が大きかったのは、連結子会社であるBerlitz Corporationとベネッセビースタジオの経営悪化。共に英会話教室を運営する2社ですが、新型コロナウイルス感染拡大により需要が下落。想定の利益を見込めなくなったことから、巨額の特別損失が計上されました。
コニカミノルタ
2023年3月期の決算で、コニカミノルタはのれんなどの減損損失計上を行い、連結最終収益が1050億円の赤字になったことを発表しました。特に影響が大きかったのは、2017年に買収したカルフォルニア州の遺伝子検査会社「アンブリー・ジェネティクス(Ambry Genetics Corporation)」の業況悪化。産業革新機構と共同で行った約900億円の巨額買収でしたが、遺伝子検査の需要が想定以下だったこと、製薬会社の治験が大幅に遅延したことにより、減損損失を計上しました。
まとめ
のれんは、目に見えない資産価値を表します。目に見えないからこそ、M&Aを行う際には、そのリスクを十分に理解しておくことも必要です。
のれんの減損が起こるということは、そのM&Aが失敗であることを意味します。のれんの減損は買収した企業だけでなく、買収した企業側の経営悪化も招きます。のれんの判断は慎重に行い、その価値を正しく見極めることが大切です。