事業承継とM&Aの違いとは?後継者問題の解決につながる手法や流れを理解しよう

著者
M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

事業の引き継ぎを検討する際に、事業承継とM&Aの違いについて理解できておらず、どちらを選択すべきかわからない人もいるのではないでしょうか。

後継者問題を素早く解決させたいのであれば、複数の事業を1つに統合できる事業承継型M&Aがおすすめです。

承継を成功させるには、事業承継とM&Aを区別し、事業承継型M&Aの注意点やメリット・デメリットについて理解することが大切です。

そこで本記事では、事業承継とM&Aの違いや、事業承継型M&Aの流れなどを詳しく解説します。

事業承継とM&Aの違い

事業承継とM&Aの違いについて解説します。

事業承継を実施する前に、事業承継とM&Aの意味を正しく理解しておきましょう。

事業承継とは

事業承継とは、事業の資産や経営権を後継者へ包括的に引き継ぐことを指します。

従業員の雇用を守り、事業の成長や発展につなげることを目的として用いられることが多いです。

事業の引き継ぎ先は必ずしも親族であるとは限らず、親族ではない従業員や社外の人間が後継者となるケースもあります。

特に、近年では少子高齢化に伴い後継者が見つからないまま廃業する企業も多く、中小企業庁による啓発活動や支援制度の拡大といった、事業承継への取り組みが進められています。

M&Aとは

M&Aは、買収や合併の手段を用いて複数の企業を1つに統合する経営戦略のことで、後継者不在による廃業を免れるために、M&Aを活用する企業が増加傾向にあります。

海外では積極的に活用されている手法ですが、国内では「買い手側による乗っ取り」「敵対的買収」というように、マイナスイメージを持たれるケースもあります。

しかし、原則として双方の合意がない限り成立しないため、M&Aは双方にとって有益な手段といえます。

事業承継とM&Aの関係性

事業承継における1つの手段としてM&Aがあります。

事業承継の選択肢は、大きく分けると「親族内承継」「親族外承継」「第三者承継」の3種類がありM&Aは、社外に事業を引き継がせる「第三者承継」の一種に該当します。

一方で、M&Aの目的・種類の1つに事業承継があり、これらは包含関係にあります。

「事業承継型M&A」の主な手法

「事業承継型M&A」とは、事業承継の手段として実施するM&Aのことです。

事業承継型M&Aの主な手法について詳しく解説します。 

株式譲渡

株式譲渡は、売り手側が買い手側の子会社となる手法であり、株式を譲り渡すことで経営権を承継し、株主が利益を獲得します。

事業譲渡と比べると手続きが容易であるため、事業承継型M&Aのなかでは最も一般的な手法といえるでしょう。

なお、株式譲渡は、負債や簿外資産も承継する点に注意する必要があります。

契約の締結後に簿外債務(賃借対照表に記載されていない債務)が発覚した場合は、トラブルにつながる可能性があるため、買い手側による課題の洗い出しが欠かせません。

合併(新設/吸収)

合併には「新設合併」と「吸収合併」の2種類が存在します。

いずれも財産の引き継ぎをする行為であり、売り手側の企業の法人格を消滅させ、買い手側の企業へ包括的に統合します。

合併後は、統合作業を迅速に進める必要があるため、従業員に負担がかかりやすく、本来の業務が手薄になる可能性があるでしょう。

また、株式譲渡よりも手続きが多く、多くの時間とコストを必要とします。

事業承継においてM&Aを採用するメリット

近年では、事業承継においてM&Aを採用するケースが増えつつあります。

M&Aを採用する3つのメリットを解説します。

適した後継者を見つけやすい

M&Aを実施することにより、親族や社内にとどまらず、社外の企業から適切な後継者を探すことができます。

後継者問題が解消されれば廃業の危機を免れるため、従業員の雇用も守ることができるようになります。

また、事業の引き継ぎを実施する際、後継者は経営に関する知識を習得する必要がありますが、M&Aであれば優れたスキルを持っている人材を確保しやすく、事業の即戦力となるでしょう。

自社の成長・発展が期待できる

M&Aで事業の引き継ぎを行うと、シナジー効果が期待できるうえに、他社の傘下で成長・発展を実現しやすくなります。

また、経営資源の統合によって、業務の効率化やコスト削減につながる点も大きなメリットです。

買い手側が有する資本を活用することで資金調達がスムーズになるため、生産体制を強化できるでしょう。

売却益を得られる可能性がある

株式譲渡を行う際に、売却益が発生する可能性がある点もM&Aを行うメリットです。

利回りが悪い事業を売却することで、業績の悪化を免れるでしょう。さらに、事業の売却により余ったリソースを別の事業に割いて、生産性の向上につなげることも可能です。

事業承継においてM&Aを採用するデメリット

M&Aを実施することで多くのメリットが得られますが、少なからずデメリットも存在します。

経営方針が大きく変わる可能性がある

買収後、双方の企業の考え方にズレが生じる可能性がある点に注意が必要です。

後任者の経営方針が現状とかけ離れている場合、新しい環境に馴染めないことで従業員の不平や不満が高まり、最悪の場合は離職率が上昇するリスクがあります。

また、統合プロセスがスムーズにいかなかった場合、システムの不具合や人為的ミスが発生しやすくなり顧客離れにつながる可能性も考えられます。

人材の流出や顧客離れを防ぐためにも、M&Aを実施する前に従業員や取引先といったステークホルダーに対し、十分な説明を行いましょう。

手間がかかりやすい

M&Aの戦略策定からPMI(M&A実施後の統合プロセス)に至るまで複数の工程があるため、手続きには大きな労力を要します。

具体的なプランを立案したとしても、想定外のトラブルが発生する可能性もあるため、想定通りに進めることは難しいでしょう。

M&Aによる事業承継の大まかな8つのステップ

ここからは、M&Aを用いた事業承継の大まかな流れを8つのステップに分けて紹介します。

ステップ1.M&Aの戦略・計画を策定する

M&Aを進める前に、買収の方向性や目的などを明確にする必要があります。

目的を明確化させることで、相手先との交渉を円滑に進めやすくなるでしょう。また、自社の強みや経営プロセス、人材などの無形資産も明確にしておくことで、M&Aを円滑に進められる可能性があります。

ステップ2.買い手企業の選定・アプローチを行う

適切な買い手企業を選定した後は、交渉のアプローチを行います。

双方にM&Aを実施する意向がある場合、売り手側は自社の基本情報を提供することが一般的です。

売り手企業は、買い手側に対して複数の機密事項を共有する必要があるため、悪用されるリスクがある点に注意しましょう。

悪用による損害を防ぐためにも、詳しい条件を提示する前に秘密保持契約(NDA)の締結を済ませることが大切です。

ステップ3.買い手企業との交渉を行う

次に買い手側の企業から提示された条件を確認したうえで、トップ面談によって交渉を進めていきます。

トップ面談では、お互いの状況を正しく理解したうえで信頼関係を構築することが大切です。

ステップ4.基本合意書の締結

M&Aの合意後は、基本合意書を締結したうえで本格的に手続きを進めていきましょう。

なお、基本合意書ではM&Aにおける基本的な条件を記載しますが、最終確定にはならない点に注意が必要です。

法的な拘束力はありませんが、買い手側を心理的に拘束するための重要なステップといえるでしょう。

ステップ5.買い手企業からデューデリジェンス(DD)を受ける

デューデリジェンスとは、企業の実態をリサーチすることです。

売り手側のリスク分析やM&A実施後のシナジーを算定するなどを目的に、買い手側が実施します。

売り手側の関係各社や子会社もデューデリジェンスの対象となるため、買い手側から情報提供を求められた際は正確な情報を共有し、協力する必要があります。

ステップ6.最終契約書の締結を行う

M&Aのすべての条件が合意に至ると、最終契約書が締結されます。

この段階で、M&Aの各当事者は定められた条件通りに実施する法的な義務を負います。

M&Aは、最終契約を締結しただけでは完了せず、最終契約書に書かれた条件を満たしたうえで、クロージングまで行わなければならないことに注意しましょう。

ステップ7.クロージングを行う

M&Aにおけるクロージングとは、最終契約書の条件通りにM&Aを実施し、事業の引き継ぎや支払いなどの手続きによって、経営権の引き渡しが完了することです。

クロージングで必要となる手続きや期間は、M&Aの手法によって異なります。

また、組織再編行為による手法の場合は株主総会の決議を得る必要があるため、契約からクロージングまでに約2ヶ月以上かかるケースもあります。

ステップ8.PMI(経営統合プロセス)を実施する

PMIと呼ばれる経営統合プロセスは、デューデリジェンスと並行して実施する必要があります。

PMIは、M&Aのクロージングまでに約3~6ヶ月の計画を策定したうえで経営統合を進め、トラブルなどで計画通りに進められなくなったときは、その都度プランを改善するようにしましょう。

PMIの進捗状況を定期的にモニタリングすることにより、より大きなシナジー効果を創出することができます。

事業承継でM&Aを実施する際の注意点

事業承継型M&Aの効果を最大化させるためにも、注意点について実施前に理解しておく必要があります。

税金の支払いが発生する

株式譲渡でM&Aを実施すると、売却で獲得した利益に対して税金が課せられます。

個人・法人の各立場で、課税される税金の種類が異なる点に注意が必要です。

個人株主の場合は分離課税となり、所得税・復興特別所得税・個人住民税の支払いが生じ、事業所得や給与所得がある場合でも金額は変わりません。

法人株主の場合は総合課税となるため、株式譲渡益に加えて本業の所得と合算した金額に対して法人税が発生しますが、本業の所得が赤字の場合、株式譲渡の利益と損益通算が可能です。

「事業承継税制」は基本的に適用できない

事業承継税制とは、事業承継に伴う相続税や贈与税の免除・猶予制度のことで、贈与の手段には「暦年贈与」と「相続時精算課税贈与」があります。

事業承継税制を適用するには相続時精算課税贈与が有利ですが、後継者が第三者である場合、相続時精算課税贈与は特殊なケースを除いて適用されません。

なお、2018年の税制改正では、従来の「一般措置」に加えて「特例措置」も設けられ、一般措置と比較すると要件が大幅に緩和されています。

さらに、後継者が第三者であっても相続時精算課税贈与の対象となりました。

事業承継でM&Aを成功させるためのポイント

事業承継型M&Aをスムーズに進めて成功に導くためには、次のポイントを押さえたうえで行うことが重要です。

事業承継・引継ぎ補助金の活用を検討する

事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業庁が運営する支援制度であり、事業承継を行う中小企業や個人事業主を対象に、必要経費の一部が補助されます。

なお、申請するためには一定の要件を満たす必要がありますが、補助の対象となっている場合はM&Aの手続きにかかるコストを軽減できるので、要件を満たしているかを確認しましょう。

シナジー効果につながる買い手企業を選定する

M&Aにおけるシナジー効果とは、2つの企業が統合することで発生する相乗効果のことです。

シナジー効果の大きさは、売り手側と買い手側の相性によって左右されますが、大きなシナジー効果を得られれば自社の成長につながります。

M&Aを成功させるには、統合のプランニングを慎重に行い、予想されるシナジーを分析しながら適切な買い手企業を選ぶことが大切です。

またシナジーを数値化し、統合プランに反映させる必要もあります。

M&A・事業承継の専門家にサポートを依頼する

事業承継のプロセスは多岐にわたり、専門的な知識がなければ円滑に進めることは難しいでしょう。

そのため、M&Aの専門家にサポートを依頼することが成功の鍵ともいえます。

事業承継を成功させるためにも、M&Aのサポート実績が豊富な専門家に依頼しましょう。

まとめ

事業承継においてM&Aを採用することで、売却益を得られるうえに、自社の成長・発展が期待できます。

親族や社内に後継者がいない場合は、事業承継型M&Aを選択するのがおすすめです。事業承継型M&Aを実施すれば、社外で適切な後継者を見つけられるだけでなく、廃業の危機を回避できます。

私たちM&Aベストパートナーズは、豊富なM&A・事業承継のサポート実績をもとに、事業承継型M&Aを成功に導くためのサポートをさせていただきます。

「M&Aの事業承継をうまく進められるかわからない」といった不安がある方は、ぜひお気軽にM&Aベストパートナーズへご相談ください。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

石橋 秀紀

ADVISOR

各業界に精通したアドバイザーが
多数在籍しております。

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