近年では、さまざまな業界でM&Aが活発に行われています。
M&Aにはいくつかの手法があり、そのうちの一つが吸収合併です。
吸収合併とはどのようなものなのでしょうか。また、吸収合併に対して、あまりよくないイメージを持っている人もいるかもしれません。
この記事では、吸収合併の概要やメリット・デメリットについて解説していきます。
また、吸収合併の手続きの流れについても紹介するため、吸収合併を検討している人や詳しく知りたい人は参考にしてください。
吸収合併とは
吸収合併とは何を意味するのか分からない人もいるでしょう。
M&Aを実施する前に各手法について、正しく理解することが大切です。
ここではM&Aスキームの一つである吸収合併の意味と、新設合併の違いについて解説します。
吸収合併の意味
吸収合併とは「二つ以上の会社を一つにすること」です。
このうち、合併したあとも法人格が残る会社は「存続会社」、存続会社に吸収されて法人格が消えてしまう会社は「消滅会社」といいます。
吸収合併により、消滅会社はすべての資産を存続会社へ移さなければいけません。吸収合併では、大規模な会社が小規模の会社を吸収するのが一般的です。
ほかにも、親会社が子会社を吸収するケースや子会社同士で吸収合併を行うケースなどもあります。
吸収合併と新設合併の違い
吸収合併と似たような言葉に新設合併があります。
新設合併とは、二つ以上の会社が新しい会社を設立して一つになることです。
新設合併後は新しく設立された会社へすべての資本を移して、それぞれのまとめられた会社はなくなります。
例えば、A社とB社が新設合併を行い新たにC社という会社を設立した場合、A社とB社はなくなるという意味です。
新設合併は、吸収合併と比べると登記免許税額が高いことや許認可の再取得または引き継ぎ手続きする必要があるため、あまり行われていません。
吸収合併のメリット
吸収合併に対して、マイナスなイメージを持っている人もいるかもしれません。
しかし、吸収合併を行うことで得られるメリットは多く存在します。
以下では、吸収合併を行う代表的な3つのメリットについて、解説します。
メリット①シナジー効果が見込める
吸収合併を行うことでシナジー効果が見込めるでしょう。
会社には、長年培ってきたノウハウやスキルがあります。これらはほかの会社では真似できない貴重な知的財産です。会社そのものが倒産してしまったら、これらの財産も同時に消滅してしまいます。
しかし、吸収合併を行うことで、このような知的財産が残せるでしょう。また、合併先にも独自のノウハウやスキルなどが継承できるため、それらと掛け合わせることで、さらなる事業拡大も見込めます。
メリット②権利義務をすべて存続会社に承継できる
吸収合併により、消滅会社の権利義務をすべて存続会社に承継することが可能です。
吸収合併すれば、消滅会社の従業員や取引先は存続会社に引き継がれます。一般的に、新たな従業員の採用や取引先の獲得などは、多くの時間とコストがかかります。
吸収合併を行えば、合併先の従業員や取引先を獲得できる可能性が高いため、採用や取引先獲得にかかる時間・コストの削減を期待できるでしょう。
メリット③合併会社に資金が無い場合も実施できる
存続会社は、対価となる資金を調達する必要がなくなります。株式譲渡や事業譲渡を行った場合、買い手の会社はその対価として現金を用意しなければいけません。
しかし吸収合併の場合は、対価として現金以外に株式や社債などを用いることが可能です。
消滅会社を存続会社の株主にすることで、それが対価になります。そのため、存続会社は、資金を調達しなくてよいというメリットが生まれるでしょう。
一方で消滅会社にもメリットがあります。吸収合併したことで会社の規模が大きくなれば、株式の資産価値が高まるため、企業成長につながるでしょう。
このように、資金の代わりに株式を用いることは存続会社だけでなく、消滅会社のメリットにもつながります。
吸収合併のデメリット
吸収合併にはメリットだけでなくデメリットもあります。
吸収合併を検討している場合は、事前にデメリットに関しても把握しておくことが大切です。
ここでは、吸収合併のデメリットについて解説します。
デメリット①PMIの負担が大きい
吸収合併は、二つ以上の会社が一つになることから、PMIの負担が大きくなる可能性があります。
PMIとは、会社の経営方針や従業員の意識などを融合するプロセスのことです。
これまで違う会社でそれぞれの仕事をしてきたため、突然「経営方針や業務内のルールを変更します」といわれても、従業員は納得できないでしょう。また、慣れるまで時間がかかるという可能性も充分に考えられます。
人事評価の方法や経理処理などは、統合させようとしても簡単にできるものではありません。評価の方法については、反発心を抱く従業員が出てくることが予想されます。
そのため、経理処理は、慣れるまでスムーズに行うことは難しいでしょう。具体的には以下のものを統合しなければいけません。
- 社風や企業風土
- 各業務システム
- 組織や配置の再編
- 人事制度
- 経理の管理システム
このようなPMIの負担を軽くするには、吸収合併やPMIなどに詳しい専門家へ相談することをおすすめします。
M&Aに精通した専門家は、さまざまな方法やパターンを熟知しているため、統合がスムーズに進むでしょう。
デメリット②合併会社が未上場会社の場合、現金化が難しい
存続会社が上場していない会社だった場合、対価として受け取った株式の現金化が難しくなるというデメリットがあります。
吸収合併の場合、存続会社はその対価として現金の代わりに自社の株式を用いることが可能です。
必ずしも存続会社が上場会社であるとは限りません。末上場会社であれば、対価である株式を現金化する方法が限られてしまいます。
具体的には、存続会社またはその関係者に株式を売却するという方法が考えられるでしょう。
デメリット③複雑な手続きが求められる
吸収合併には、複雑な手続きが伴います。
その理由は、存続会社だけを残してそれ以外の会社は消滅するためです。
会社の消滅といっても、会社の名前をなくせばよいという簡単なものではありません。
吸収合併の手続きは、会社法で細かく規定されており、規定に則って手続きを進める必要があります。そのため、手続きの種類が多く、事務作業の面での負担が大きくなるでしょう。
会社の規模によっては、事務を担当する従業員の人数が限られているケースもあります。その場合、通常業務をこなしながら吸収合併の手続きも進める必要があるため、勤務時間の面で負担を強いられるかもしれません。
このような事務処理での負担を避けるには、専門家へ依頼することがおすすめです。複雑な手続きを代行してくれる可能性があるため、負担が軽減されるでしょう。
吸収合併の手続きの流れ
吸収合併の手続きは、具体的にどのような流れで行われているのでしょうか。
専門家へ依頼する場合であっても、手続きの流れをある程度理解しておくことが大切です。
ここでは吸収合併の手続きの流れについて、簡単に解説します。
- 合併契約の締結
- 合併契約等の備置や開示を行う
- 合併会社の承認決議
- 反対株主の株式・新株予約権の買取請求の対応を行う
- 対価を交付する
- 合併の効力発生
- 事後開示書類等の据置・開示
合併契約の締結
まずは、会社間で合併するための契約を締結します。
これが吸収合併の手続きをするための最初のステップです。契約が締結されなければ、手続きはできません。
合併契約は契約書を作成し、当該会社がサインすることで締結されます。契約書には、効力の発生日や対価の支払い方法などの明記が必要です。
契約が締結されると、株主に通知・公告を行います。通知・公告は合併の効力が始まる20日前までに行わなければならないため注意しましょう。
合併契約等の備置や開示を行う
合併を示す契約といった法律で開示が求められている書類は、当該会社の本店にあらかじめ用意して置いておかなければいけません。
また、吸収合併に関係のある株主や従業員は、法律で認められている範囲内での開示請求ができます。このような請求があれば、当該会社はこれに直ちに応じなければいけません。
備置は株主総会の2週間前に行う必要があります。ただし、株主や債権者への通知または公告、株式買取請求の通知・公告の日のほうが株主総会の2週間前よりも早い場合は、その日から保管しなければいけません。
合併会社の承認決議
吸収合併にかかわる当該会社は、それぞれの株主総会で株主から承認を得なければいけません。
また、存続会社は吸収合併後に経営方針が変わる可能性が高いため、こちらも株主総会で承認を得ておく必要があります。
反対株主の株式・新株予約権の買取請求の対応を行う
反対株主に対しては、株式や新株予約権の買取請求に応じる必要があります。
すべての株主が吸収合併に賛同してくれるとは限りません。なかにはさまざまな理由で反対する株主も現れるでしょう。
反対株主は、自分が持っている株式や新株予約権を手放すことになります。これは会社法で定められている株主の権利であり、当該会社はこの請求に応じなければいけません。
対価を交付する
合併会社の株式を、株主に対価として交付します。
吸収合併を行う際、存続会社は対価として株式を用いるケースがあるでしょう。そのような場合、対価の株式は吸収合併に賛同した株主に交付されます。
合併の効力発生
合併の際に取り交わした契約書の効力が発生します。
契約書には、効力が発生する日が記載されており、その日が効力発生日です。
消滅する会社の権利や義務は、すべて存続する会社に引き継がれます。効力発生日までに、承継の手続きは終了しているので、すべきことは特にありません。ただ、それぞれの会社にとっては重要な日といえるでしょう。
事後開示書類等の据置・開示
吸収合併の効力が発生したあとは、本社に事後書類を備え置きます。
保管期間は、効力が発生した日を起算日として6ヶ月間です。
吸収合併の登記について
吸収合併をする際に、気をつけなければならないのが、消滅した会社の証拠です。
契約書を取り交わして権利や義務の承継を行い、会社が消滅したという証拠を残す必要があります。
その手続きが、吸収合併の登記です。
ここでは、吸収合併後のトラブルに見舞われないようにするため、登記について分かりやすく解説します。
吸収合併の登記申請の手続き
吸収合併の効力が発生した日を起算日として2週間以内に、変更登記と解散登記の両方の手続きを同時に行う必要があります。
存続会社が行う手続きが、変更登記です。
具体的には、「株式会社合併による変更登記申請書」という既定の書類を法務局に提出します。株式を対価として交付している場合は、発行した株式の総数と資本金の額を登記しなければいけません。
消滅会社は、解散登記の手続きを行います。本店の所在地を管轄している法務局で、消滅登記の申請を行わなければいけません。
吸収合併の登記による登録免許税額
吸収合併の登記では、登録免許税を支払わなければいけません。
存続会社の場合、吸収合併で資本金が増加している可能性があります。その場合、増えた資本金の0.15%の登記免許税を支払わなければいけません。
消滅会社の場合は、消滅登記の登録手数料として3万円を支払います。この登録手数料が、登録免許税です。
吸収合併の契約書における記載内容
吸収合併を行う際は、どのような取引が行われたのかを記録として残しておくことが大切です。
契約書には、法定記載事項と任意的記載事項の2種類に分かれています。
そのうち、必ず記載されていなければならないのが、法定記載事項です。
契約書の確認で、法定記載事項が正しく記載されているかを確認するようにしましょう。
吸収合併契約と法定外契約の違い
吸収合併契約は、吸収合併する際に取り交わされる契約です。
しかし、吸収合併では、別の契約も並行して取り交わされる法定外契約があります。この契約は、吸収合併契約によって行わなければならない統合プロセスの内容を明確にすることが目的です。
吸収合併の際に同時に取り交わされる法定外契約のなかでも、代表的なものに「経営統合契約」があります。この契約には、経営統合の際の管理体制や経営体制などが、契約書の事項として盛り込まれています。
まとめ
今回は、吸収合併について解説しました。
吸収合併は、マイナスなイメージが先行しがちですが、会社や従業員にとってメリットな部分も多くあります。
長い目で見た場合、吸収合併のほうがよいケースもあるでしょう。
ただし、その手続きは決して簡単なものではありません。また、登記の仕方にも不安を感じるという人も多いでしょう。
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