自由な売買ができると思われがちな株式ですが、自社株式に譲渡制限を設けている中小企業は多く、その譲渡には所定の手続きを必要とします。
そこで本記事では、譲渡制限が設けられた株式の概要について解説します。
あわせて、譲渡制限がされている株式の譲渡方法についてもご紹介するので、自社株式に制限をかけようか悩まれている方はぜひ参考にしてください。
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目次
株式譲渡制限とは?
株式譲渡制限とは、株式を譲渡(売買取引)する際に株式を発行している会社による承認が必要となる制度です。
なお、全ての株式に対して譲渡制限を設けている会社のことを「株式譲渡制限会社」と呼びます。
株式譲渡制限をする背景
株式の売買は自由にできるという認識が一般的ですが、なぜ企業は自社株式に譲渡制限を設けるのでしょうか。
株式譲渡が本来自由とされている理由、そして企業が株式譲渡制限をする背景を解説します。
本来は株式譲渡自由が原則
会社法127条では、原則として株式は自由に譲渡できるとされています。
この理由として、株主が投資した資本を回収するための手段として、会社の解散に伴う残余財産の分配、剰余金の分配(配当金)など以外には、株式の譲渡に伴う対価しかないためと考えられているためです。
残余資金の分配は会社が解散しなければ発生しませんし、配当金だけでは迅速な資金回収をすることはできません。しかし、株式を譲渡することによって早期回収と投資からの離脱が可能となります。
株式譲渡制限をする背景
企業が自社株式に譲渡制限を設ける背景として、以下を目的とするケースが多いです。
- 株主構成のコントロールによる経営の安定化:
株主構成をコントロールすることで、経営方針にそぐわない株主が関わることを回避できる。 - 敵対的買収(TOB)のリスク低減:
自由に売買できなくなることで敵対的買収リスクを低減し、経営権の安定化が図れる - 取締役会などの手続き簡略化:
取締役会の設置や監査役のはち、年4回以上の取締役会の開催などの義務が不要となり、経営の効率化やコスト削減が可能 - 役員の任期延長による任期管理のしやすさ:
通常、取締役は2年、監査役は4年が任期だが、株式譲渡制限会社の場合は定款の定めにより最大10年まで延長が可能。 - 株主総会の手続き簡略化:
譲渡制限がない場合、株主総会の招集通知は開催2週間前だが、株式譲渡制限会社の場合は通常1週間前となる
自社株式に譲渡制限を設ける流れ
自由株式に譲渡制限を設ける場合、対象とする株式が種類株式か田舎によって流れが異なります。
1種類の株式の場合、種類株式の場合それぞれの流れを解説します。
1種類の株式に譲渡制限を設ける場合
1種類の株式に譲渡制限を設ける場合の主な流れは以下のとおりです。
- 株主総会による特別決議
- 効力発生日の20日前までに株主・新株予約権者へ通知もしくは公告
- 反対株主や反対新株予約権者による買取請求
なお、株券発行会社の場合は上記の手続き以外にも株券提出公告と通知も必要となります。
種類株式に譲渡制限を設ける方法
配当や残余財産の分配、議決権など権利内容が異なる株式を2種類以上発行している場合に、発行されている種類株式へ制限を設ける流れは以下のとおりです。
- 株主総会による特別決議
- 譲渡制限を設ける種類株式、取得請求・取得条項の対価とする種類株式の株主を構成員とする種類株主総会による特殊決議
- 効力発生日の20日前までに株主・新株予約権者へ通知もしくは公告
- 反対株主や反対新株予約権者による買取請求
なお、種類株式の場合も、1種類の株式のときと同様に譲渡制限を設ける種類株式について株券提出公告と通知が必要となります。
譲渡制限のある株式を譲渡する方法
譲渡制限がかかっている株式は、株主が会社に対して譲渡の承認を請求する「株式譲渡承認請求書」の提出によって承認可否の決定を請求(会社法136条)し、取締役会、もしくは定款で定められている当該機関(株主総会など)による承認があれば譲渡が可能です。
株式譲渡承認請求を受けた企業は取締役会を開催し、過半数以上の出席、出席者の過半数以上の賛成(取締役会未設置の場合は株主総会の普通決議)によって承認されます(会社法139条・309条)。
譲渡が承認された場合の流れ、そしてもし承認されなかった場合どうなるのかを解説します。
参考:e-Gov 法令検索|会社法第136条・第139条
参考:e-Gov 法令検索|会社法第309条
承認された場合
取締役会などで承認された場合は、承認後に譲渡が実行され、株主名簿の書き換えれば譲渡は完了です。
不承認の場合
株式譲渡請求が不承認となった場合、株式発行会社または取締役会の決議(未設置の場合は株主総会による特別決議)で定められた指定買取人によって譲渡を引き受けることができます。
【会社が買い取る場合】
- 株主総会特別決議で買い取る意向と買い取る株式数を決議
- 株主へ通知(不承認通知から40日以内)
- 通知を受けた株主が1週間以内に株券を本店所在地の供託、その旨を通知する
【指定買取人が買い取る場合】
- 取締役会(取締役会がない場合は株主総会の特別決議)にて指定買取人を指定
- 株主へ通知(不承認通知から40日以内)
- 通知を受けた株主が1週間以内に株券を本店所在地の供託、その旨を通知する
譲渡の承認を得ずに譲渡制限株式を譲渡した場合の対応
承認を受けずに譲渡制限が設けられている株式を第三者へと譲渡した場合、当事者同士の間では有効な譲渡となるため、譲渡人は対価を請求することができ、譲受人は株券の交付を請求することが可能です。
しかし、譲渡制限のある株式の名義は承認がない限りは実行することができません。
そのため、未承認のまま制限のある株式を譲渡して名義を変更する場合は、譲渡人・譲受人が会社へ当該株式を取得したことに関する承認の可否を決定するための請求が必要です。
請求が承認されれば譲渡自体も認められたことになり、株主名簿の名義書き換えができるようになります。
まとめ
自社発行株式に譲渡制限をかける方法は、特に中小企業が自社の経営権などを守るために用いられる方法です。
しかし、株式に譲渡制限を設けた場合、将来M&Aや事業承継などを行う際に思わぬ弊害を生み出す可能性があります。
譲渡制限株式を適切に取り扱い、スムーズなM&A・事業承継を行いたいとお考えの方は、まずはお気軽にM&Aベストパートナーズへご相談ください。
M&Aや事業承継に関する知識や経験の豊富な専任アドバイザーがお話を伺い、スムーズに実行するためのサポートをさせていただきます。
