
会社をたたむことは、多くの経営者にとって大きな決断です。
だからこそ、どのタイミングで判断すべきか、どのような手続きを踏むべきか、そして費用はどれくらいかかるのか、知りたい人は多いでしょう。
本記事では、後継者不在や資金難、人手不足など、廃業を検討すべき状況を洗い出し、具体的な手続きの流れや費用について解説します。
正しい準備によってスムーズに会社をたたみ、次のステップへ安心して進むためのヒントを得たい方は、ぜひ参考になさってください。
目次
会社をたたむ判断基準・タイミング
それではさっそく、会社をたたむタイミング・判断基準をみていきましょう。
後継者が見つからない
経営者の高齢化が進むなか、後継者の不在は多くの企業で課題となっています。
とくに中小企業では、経営者のマンパワーに依存していることが多く、退陣すれば事業の維持が難しくなるケースは少なくありません。
若く優秀な人材に引き継げれば会社存続も可能でしょうが、実際には難しい場合が多いでしょう。
とはいえ、無理に事業を続ければ体力的にも精神的にも負担が増していく一方で、いつか心身を壊してしまいます。
そうなると、自分自身はもちろん、周囲へ与える悪い影響も大きくなってしまうでしょう。
逆に、健康なうちに廃業を決断すれば、資産の清算や手続きもスムーズに進められ、取引先や従業員への影響を最小限に抑えられます。
資金調達が難しい
会社を運営するうえで、安定した資金の確保は不可欠です。
それがままならなくなり、経営者の高齢化によって新事業への展開や、斬新な経営方針の転換といったことも難しくなってしまったのであれば、速やかな決断が必要となります。
とくに、定期的な設備投資などが必要な業種であれば、より早く決断すべきでしょう。
もし、会社の負債が資産を上回る「債務超過」の状態に入り、それが続いてしまうと、事業の継続は一層困難になります。
債務超過とは、貸借対照表において「資産」の合計金額よりも「負債」の合計金額が大きい状態のことです。こうなってしまうと、金融機関からの追加融資も期待できません。
債務超過が解消できる見込みがない場合、早めに会社をたたむ選択をすることで、さらなる負債の拡大を防げます。
人手不足が深刻
多くの中小企業で、人手不足が大きな課題となっています。
少子高齢化の進行により、労働人口そのものが時間とともに減っており、さらに若年層の大企業志向が強まってきたことで、採用のハードルが一層高くなってきています。
その結果、人材を確保できず、事業の維持が困難になるのです。
とくに、専門的な技術や経験が必要な業種では、新たな人材が育たず、既存の従業員に負担が集中しやすい状況が生まれています。
業務の属人化が進むことで、長時間労働が当たり前になってしまえば、従業員の離職が相次ぎ、さらに人手不足が加速する悪循環に陥ることもあるでしょう。
このような状況が長く続くと、業務の質の低下や取引先との関係悪化にもつながりかねません。
人材確保が難しく、事業の継続が困難になった場合は、無理に経営を続けるよりも、早めに撤退を考える必要があります。
会社をたたむ手続き・手順

それでは、ここから会社をたたむ手続きについて、順を追って説明していきます。
関係各所への説明と手続き
まず、従業員や取引先、金融機関など関係各所への説明です。
従業員には廃業の理由や今後のスケジュールを明確に伝え、今後の雇用についてや退職金に関する説明を丁寧に行いましょう。
取引先企業や金融機関に対しても、廃業の経緯を説明し、借入金の返済方法などについて話し合う必要があります。
とくに金融機関との調整を怠ると、信用問題に発展しかねません。
そして、債権・債務の処理を適切に進めることも重要です。
未払いの請求や売掛金の回収について整理し、関係各所と、合意を得たうえで手続きを進めましょう。
さらに、商工会や保険の各種契約についても、退会や解約を行います。
取締役会・株主総会での決議
次に、取締役会や株主総会での正式な決議が必要になります。
この場合、定時株主総会ではなく、臨時に重要事項を話し合う臨時株主総会を開くことになるでしょう。
ここで、解散決議を行うのです。
とくに、株式会社の場合、解散には株主総会での「特別決議」が求められます。
会社法第309条第2項では、特別決議について「株主総会において議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とする」と定められています。
これをクリアできるよう、事前に株主との調整を行い、円滑に決議を進められるようにしておくことも重要です。
解散・清算人選任と登記
次に、経営者に代わって清算業務を執行する「清算人」の選出です。
何もしないでいると、代表取締役がその役割を担うことになりますが、株主総会の決議によって別の人物を選ぶこともできます。
株主総会で解散の決議と清算人の選任ができたら、2週間以内に解散登記および清算人登記を行わなければなりません。
なお、これらの登記には、以下の書類が必要になります。
- 登記申請書
- 定款
- 株主総会議事録
- 清算人の就任承諾書
- 株主リスト
- 印鑑届出書
- 清算人個人の印鑑証明書
会社解散の届出と公告
異動届出書と登記事項証明書を作成し、これを各公的機関に提出します。
これは、法人としての活動を終了することを正式に報告する手続きです。
加えて、法人住民税・事業税などを都道府県税事務所に届け出ます。
社会保険や雇用保険の解約に全喪届や資格喪失届を提出することも必要です。
そして、会社をたたむことを国が発行している官報(機関紙)、あるいは個別の催告で公告しましょう。
これは、世間や従業員への公告であることはもちろん、債権者のために行う面もあります。
債権者が会社をたたむことを知らないでいると、債権が消滅してしまうかもしれません。
そういった事態を防ぐために、企業は債権者保護手続きを行わなければならないのです。
そのため、会社をたたむことを2か月あるいはそれ以上、官報に掲載する必要があります。
決算書類の作成・申告
次に決算を行いますが、会社をたたむ場合、通常の決算とは異なり、2回書類を作成する必要があります。
1回目であるこのときに作成するのは、解散時の決算書類で、財産目録や貸借対照表、損益計算書などです。
この財産目録と貸借対照表については、株主総会による承認が必要になります。
そして注意するべきなのが、事業年度が事業年度開始日から解散日まででひとつの年度となる点です。
また、確定申告の期限は、解散日から2か月以内になります。
残ったお金の整理と分配
会社をたたみ、清算して、すべての債務を支払った後に残った財産のことを残余財産と呼びます。
この残余財産は、株主のものとなるため、保有する株数に応じて割り当てられ、分配することが必須です。
しかし、残余財産のうち、会社が保有していた土地や建物といった固定資産は現金化する必要がありますが、これをすぐに売却できるとは限りません。
また、その売却価格も想定より低くなる可能性があるため、早めに相場を確認し、適切な方法でこれらの資産を売却・整理する必要があります。
決算報告書の作成
これが最後の決算書類の作成です。
これは、会社の最終的な状況をまとめたもので、すべての手続きが完了したことを示す書類にもなります。
そして、この書類を作成した後は、株主総会を開催し、株主の承認を得ることが必須です。
株主の承認をもって、会社の清算手続きが正式に終了し、次の最終手続きまで進めます。
清算結了の登記・申告
最後に、会社の清算を完了させる清算結了の登記と申告を行います。
これは、株主総会で最後の決算報告の承認を得てから、2週間以内に法務局で行わなければなりません。
この登記が完了すると、法人は正式に解散となり、会社の登記簿は閉鎖されます。
清算結了の登記には、以下の書類が必要です。
- 登記申請書(株式会社清算結了登記申請書)
- 株主総会議事録
- 決算報告書
- 株主リスト
- 委任状(登記を司法書士などの代理人に依頼する場合)
そして、申告の際は、以下の書類も必要になります。
- 異動届出書
- 登記事項証明書(閉鎖事項全部証明書)
また、残余財産確定後の清算確定申告もあり、その期限は、残余財産が確定してから1か月以内になります。
廃業にかかる費用

会社をたたむ際には、さまざまな費用が発生します。
その主な内訳としては、登記代、官報公告費、物件の原状回復費などが挙げられます。
登記代は以下のとおりです。
- 解散登記:30,000円
- 清算人登記:9,000円
- 清算結了登記:2,000円
合計:41,000円
会社の解散を公告するための官報公告費は、1行につき3,589円(税込)かかるため、公告の長さによって費用が変わってきます。
専門家に頼らず、自分で廃業手続きを行う場合は、上記に加えて、登記事項証明書の発行手数料(1通600円)などの細かい費用が発生しますが、全体の費用は抑えられるでしょう。
登記手続きのみを司法書士に依頼する場合は、7万~10万円程度、廃業手続きすべてを税理士や司法書士などの専門家に依頼する場合、一般的な代行費用は15万円~30万円程度になります。
まとめ
会社をたたむ決断をくだすのは、後継者が見つかることはもうない、資金繰りの悪化が止まらない、人手不足が止まらない、といった状況に陥ったときがタイミングとして適切といえるでしょう。
しかし、いざその手続きを始めると、関係各所への説明や手続き、整理など、多くの時間と手間がかかってしまいます。さらに、登記費用や官報公告費、原状回復費用など、負担すべきコストも少なくありません。
一方、M&Aによる会社売却を選べば、廃業に伴う費用を抑えられるだけでなく、手元に多くの資金が残る可能性があります。事業を継続させることで従業員の雇用を守ることにもなるため、関係者全員にとってメリットがある選択肢です。
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