2024年5月30日

病院のM&A事例や譲渡で注意すべき点|譲渡を検討する際のガイド

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

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高齢化に伴い病院を利用する患者は増えているものの、経営状態が悪化している病院も存在します。

地域社会に対して安定した医療サービスを提供するためには病院の経営を立て直すことが急務となりますが、そのための手段として考えられるのがM&Aです。

本記事では、病院のM&Aを進める際に注意すべき点や課題、一連のプロセス、M&Aに成功した病院の事例などもご紹介します。

病院のM&Aについて

株式会社や合弁会社といった企業の場合、M&Aを行う際には株式の譲渡や移転などの手法を選択できますが、病院の場合これらの手法をとることができません。

また、一口に病院といっても医療法人が運営している大きな病院から、個人が運営している小規模なクリニックまでさまざまです。

M&Aの対象となる病院によっても手法は異なり、さらに法的な規制もクリアしなければならないため、専門家によるアドバイスのもとM&Aを進めていくケースが一般的です。

病院のM&Aでは、「合併」「事業譲渡」「持分譲渡」のいずれかが選択されます。

  • 合併:複数の法人をひとつに統合する方法
  • 事業譲渡:特定の事業およびその資産をほかの法人に譲渡する方法
  • 持分譲渡:社員の出資持分を買い取る手法

病院M&Aを理解する

病院のM&Aにあたっては、医療法人の種類や関係するステークホルダーなどを最低限理解しておかなければなりません。

医療法人の種類

医療法人は主に以下の6つの種類に分けられ、それぞれ特徴も異なります。

 概要特徴
社団医療法人
  • 出資や基金によって設立された医療法人
  • 出資持分あり医療法人と持分なし医療法人に分けられる
財団医療法人
  • 寄付によって設立された医療法人
  • 社団医療法人に比べると財団医療法人は少数
出資持分あり医療法人
  • 医療法人の定款として社員の出資持分を定め設立された医療法人
  • 理事(取締役にあたる人)と社員(株主にあたる人)が存在
  • M&Aでは社員の出資持分を買い取り、持分譲渡によって経営権を取得することが可能
  • 2007年の医療法改正により、出資持分あり医療法人の新規設立は禁止となった
持分なし医療法人
  • 基金として拠出することで経営に必要な資金を調達する医療法人
  • 売り手である医療法人に代わって買い手の人間を社員・評議員として入れ替えることにより経営権を取得する
特定医療法人
  • 租税特別措置法第67条の2によって定められた要件を満たした医療法人
  • 救急医療や災害救援など公益性を担う医療法人に対して都道府県知事が認定を行う
  • 税制優遇措置を受けられる
社会医療法人
  • 医療法第42条の2によって規定されている医療法人
  • 一定範囲内での収益業務や法人債を発行可能
  • 税制優遇措置を受けられる

病院のM&Aにおけるステークホルダー

一般の企業は売り手と買い手双方の合意があればM&Aを進めることができますが、病院の場合は地域住民に対して医療サービスを提供する重要な立場にあることから、行政との事前協議が必要となります。

また、地方議会においてはM&Aの実施にあたりさまざまな質問を受ける可能性があったり、地域住民に対しては案内文の作成や説明会の実施などが求められることもあるでしょう。

さらに、他の医療機関へ医師の派遣を依頼している病院も多く、派遣元である病院との間で調整や交渉が必要になることもあります。

このように、病院のM&Aを進める際にはさまざまなステークホルダーへの説明や交渉、事前協議が求められるケースがあることを理解しておかなければなりません。

病院M&Aの将来展望

病院のM&Aの現状やトレンド、さらに今後どのように変化していくのか将来の展望も含めて解説しましょう。

病院M&A分野におけるトレンド

現在の日本は高齢化が急速に進んでおり、社会保障費の負担が増大しています。

高齢者を中心に病院にかかる患者が増えている一方で、診療報酬の引き下げが続いていることから、苦しい経営を強いられる病院も少なくないでしょう。

また、医師や看護師などの人手不足も深刻化しており、外部の医療機関から医師を派遣してもらうことで医療体制を維持している病院もあります。

このような経営課題を解決するために、M&Aによって外部の医療法人と合併する病院も増えています。

今後数年間の予測​

高齢化は今後も続いていく見込みであり、社会保障費の負担がさらに増大していく可能性は極めて高いといえるでしょう。

診療報酬についても減少傾向が続くことはほぼ確実であり、将来的に値上がりする目処は立っていないのが現状です。

病院にとっては苦しい経営状態が見込まれることから、経営を立て直すための手段として今後M&Aが増えていく可能性は高いと考えられます。

病院でM&Aを行うメリット

M&Aと聞くと、会社を乗っ取られるといったネガティブなイメージがつきものですが、さまざまなメリットがあることも事実です。

病院のM&Aによって得られるメリットをご紹介しましょう。

経営効率の改善

診療報酬の引き下げによって十分な利益が確保できないと、病院は医師や看護師を雇用し続けることが難しくなります。

その結果、診療科が削減され来院する患者も減少し、悪循環に陥る可能性もあるでしょう。

M&Aによってほかの病院と合併できれば、医師や看護師不足が解消され経営の立て直しを図りやすくなります。

医療サービスの強化

高度な医療サービスを提供するためには、最新の医療設備や専門人材を確保しなければなりません。

しかし、資金力に乏しい病院や十分な利益が確保できていない病院にとっては、設備投資や人材の採用にかけられるコストがなく医療の質そのものが低下する可能性もあります。

M&Aによって外部の病院と手を組むことができれば、医療設備や専門人材が確保しやすくなり地域住民に対して高度な医療サービスを展開できるようになるでしょう。

病院のM&Aのプロセス

病院のM&Aはどのようなプロセスで進められるのでしょうか。3つのフェーズに分けて解説します。

1.検討・準備

M&Aには法律的な問題やさまざまな制約が伴うことから、M&Aをサポートする専門の会社に相談しながら進めるケースが多いです。

そのため、まずはM&A支援会社に問い合わせ・相談することが第一歩となります。

秘密保持契約(NDA)の締結や事業価値評価の実施、医療施設概要書などの作成が具体的な準備として挙げられます。

2.マッチング・交渉

M&A支援会社はどのような条件で病院の譲渡または買収を検討しているのかをヒアリングし、その条件にマッチした病院を紹介します。

売り手・買い手双方のトップ同士の面談を経て基本合意を締結した後は、行政をはじめとしたステークホルダーとの調整を行います。

3.最終契約

基本合意の締結とステークホルダーへの調整・交渉を無事終えることができたら、細かな契約条件などを確認のうえ最終的な合意を結びます。

最終契約で交わす書類は法的な拘束力をもつため、専門家を交えながら細かな文言の確認が必須です。

医療法人の種類やM&Aのスキームによっても最終契約で交わす書類の名称は異なり、たとえば出資持分譲渡であれば「出資持分譲渡契約書」、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」となります。

最終契約を交わした後はその内容に沿って経営権が移転され、これらの手続きを経て一連のM&A手続きは完了となります。

病院のM&Aの課題と解決策

病院のM&Aを進めるにあたっては、さまざまな課題が出てくることもあります。それらの解決法も含めて詳しく解説しましょう。

規制のハードル

株式会社などの一般の企業とは異なり、病院のM&Aはさまざまな規制をクリアしなければなりません。

たとえば、企業の株式にあたる出資持分の譲渡が行えるのは出資持分あり医療法人のみであり、持分なし医療法人の場合は社員・評議員の入れ替えなどの手法で行わなければなりません。

また、病院によっては民間企業や個人が開設主体となっているケースもあれば、国や自治体など公的機関が主体で開設した病院もあるでしょう。

開設主体によっても許認可の届出先やステークホルダーも異なる場合があることから、M&Aの手続きにあたっては十分な確認と準備が必要です。

文化の統合

病院に限ったことではありませんが、M&Aによって複数の企業・団体を統合する際には、それぞれ異なる文化を受け入れる体制を整えることも大切です。

病院によって患者の受け入れ方針や医療サービスに対する考え方などが異なる場合があり、異なる文化の病院で働いてきた医師や看護師にとってはお互いの考え方や価値観が合わず、軋轢を生む可能性もあります。

M&Aを行う際には、職員に対する十分な説明はもちろんのこと、職員同士の交流やコミュニケーションを活性化しお互いの文化を理解し受け入れていく施策も検討してみましょう。

病院のM&Aの成功事例

最後に、M&Aに成功した病院の事例をご紹介します。

医療法人清水桜が丘病院様

医療法人清水桜が丘病院は、北海道釧路市で50年以上にわたって医療サービスを提供してきた精神科・麻酔科クリニックです。

外来はもちろんのこと入院患者の受け入れも可能であり、病床数は地域最大の162床を誇ります。

しかし、2023年5月に当時の院長、輝彦氏が脳梗塞で倒れ、さらに6月には創設者である理事長も他界したことにより経営の危機ともいえる状況に陥りました。

輝彦氏の妻である恵子氏は医師として同院に従事していましたが、この危機を脱すべく経営に参画することを決意しました。

病院経営に関して事務長から引き継ぎを行う中で、輝彦氏は精神科クリニックとしての将来性に不安を感じ、M&Aを検討していたことを告げられます。

恵子氏も家族経営のままで病院を守っていくのは難しいのではないかと感じていたことから、M&Aを前向きに考えるようになりました。

M&A支援会社からは北海道・東北エリアで薬局や保育所を展開している企業が提案され、すぐさまトップ同士の面談が行われることに。

清水桜が丘病院ではこれまで薬品の流通網に課題を抱えていましたが、M&Aによって大きな企業と手を組めたことで少量の薬でも手配しやすくなったといいます。

また、釧路市では麻酔科医がおらず、地域医療がいつ崩壊してもおかしくない危機的状況にありますが、M&Aによって経営が安定したことにより地域住民へ継続的な医療サービスを提供できる体制も整えることができました。

病院のM&Aについてのまとめ

社会保障費の増大に伴う診療報酬の引き下げ、深刻化する人手不足などによって、厳しい経営を強いられている病院も少なくないでしょう。

このような背景もあり、経営を安定化する手段としてM&Aを選択する病院は今後も増えていくと予想されます。

ただし、病院は医療サービスを提供することで地域住民の命と健康を守るという重要な役割を果たしているため、M&Aにあたってはさまざまな制約があります。

一般の企業とは異なるルールや規制を受けることが多いため、まずは信頼できるM&A支援会社へ相談してみることが大切です。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

M&Aベストパートナーズのマガジン編集部です。

M&Aストーリー

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