インサイダー取引とはどのような取引なのでしょうか。近年、個人株主の取引は増加傾向にあります。自らの取引が意図せずインサイダー取引とならないよう、知っておく必要があるでしょう。ぜひ本稿をインサイダー取引の概念や定義の理解に役立ててください。
目次
インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、企業の内部情報を知る役員、従業員、取引先など関係者が、その職務や地位により知り得た未公開情報を利用し、公表前に株式を売買することで、自己の利益を図ろうとする不正取引です。金融商品取引法等で禁止されており、違反者には証券取引等監視委員会による刑事告発や課徴金納付命令の勧告が行われる犯罪です。
違反した場合、5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金、または懲役と罰金の両方が科せられます。法人の場合には、その行為者への罰則のほか、法人に対して5億円以下の罰金刑が科せられます。また、インサイダー取引で得た財産は原則として没収、または追徴されます。インサイダーは「組織の内部にいる人、事情に精通している人」などを意味します。
情報を知り得ない一般の投資者は、不利な立場で市場取引を行うこととなり、証券市場の信頼性が損なわれかねません。取引を実行した者だけでなく、他者に重要情報を伝える行為や、取引を推奨する行為も悪意の有無に関係なく規制の対象となります。利益を上げるのではなく、損失を減らすための取引も同様に規制の対象です。
インサイダー取引が規制される理由
それでは、インサイダー取引が規制される理由を詳しく見ていきましょう。
一般投資家との公平性が損なわれるため
インサイダー取引がまかり通ると、一般投資家との間で不公平が生じ、金融商品市場の公正性・健全性が損なわれます。市場取引が停滞し、市場の存在が危うくなるでしょう。
企業情報が公正に開示されなくなるため
重要な企業情報によって得をすることが公認されてしまえば、当然、情報自体に価値がつき、現在のように誰でも公平に情報を閲覧することができなくなるでしょう。
株価の変動に関わる重要事実を「公表」前に入手し、市場取引等を行った場合、インサイダー取引となります。「公表」とは以下のように定められています。
- 2つ以上の報道機関に重要事実を公開し、かつ12時間が経過したこと。
- 重要事実に係る事項の記載がある、有価証券報告書等が、公衆縦覧に供されたこと。
- 上場する金融商品取引所等に対し、重要事実を通知し、内閣府令で定める電磁的方法により公衆縦覧に供されたこと。(適時開示情報伝達システム「TDnet」への登録など)
会社のHPに重要事実が掲載されても、「公表」には該当せず、インサイダー取引の規制対象となります。
インサイダー取引の法的規制
ここでは、インサイダー取引の法的規制について説明します。
金融商品取引法で規制
インサイダー取引は主に金融商品取引法第166条および167条によって規制されています。
- 会社関係者等によるインサイダー取引の禁止(金融商品取引法166条)
上場会社等の役職員や取引先等会社と関係ある者(会社関係者)が、その職務等に関して重要事実を知った場合、公表された後でなければ、当該株式等の売買等を行ってはならないとされています。また、重要事実の伝達を受けた者も、同様に当該上場会社等の株式等の売買等を行ってはなりません。
- 公開買付者等関係者によるインサイダー取引の禁止(金融商品取引法167条)
上場会社等の株式等の公開買付者等関係者が、未公表の公開買付にかかる事実を知った場合、これが公表された後でなければ、当該株式等の売買等を行ってはならないとされています。また、公開買付等に関する事実の伝達を受けた者も、同様に当該株式等の売買等を行ってはなりません。
また、これらの2項目に加え、金融商品取引法163条~165条において上場会社等の役員、主要株主(10% 以上の株主)は、重要事実を容易に知り得る立場にあることから、当該上場会社等の株式等の売買等について内閣総理大臣への報告や規制が課せられています。
インサイダー規制にかかる法令
- 金融商品取引法
- 金融商品取引法施行令
- 有価証券の取引等の規制に関する内閣府令
課徴金や懲役刑などの制裁措置あり
インサイダー取引規制に抵触した場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科が科されます。このほか、従業員等がインサイダー取引を行った場合、社内規定による懲戒処分や、損害賠償請求を受けることが考えられます。
法人の代表者または、法人の代理人や使用人、その他の従業者が、その法人の指示でインサイダー取引規制に違反した場合、その法人に対して5億円以下の罰金刑が科されます。また、取引規制違反によって得た財産は原則として没収、または追徴されます。企業の社会的な信頼が失墜し、回復しがたいダメージを受けるでしょう。
インサイダー取引に該当する主体
インサイダー取引の規制対象者は、金融商品取引法166条1項、167条1項に「会社関係者」と「公開買付者等関係者」と規定されます。「会社関係者」に該当する場合には該当しなくなってから1年、「公開買付者等関係者」の場合は半年、規制の対象であることに留意しましょう。
実際の管理運営では、どちらの情報も区別なく日常的に触れる可能性があるため、従業員等はインサイダー情報を未然に防ぐ該当企業の「社内規定」などにより、該当職務を離れてから1年以内は株式取引を行わない等の誓約書を交わすことが多いでしょう。
代表的な対象者は次のとおりです。
上場企業の役員・従業員
上場会社等の役員、従業員(パート、派遣社員等も含む)は、重要情報の決済の実施や、重要情報に係る業務を任されているなど日常的に重要情報に接する可能性が高いため、規制の対象です。
取引先企業の関係者
上場会社等の取引先・顧問先等(取引銀行、弁護士、公認会計士、税理士など)も、該当企業の経営にかかるアドバイス等を業務として行うことから、重要情報について詳細を熟知している可能性があり規制対象とされます。
監督官庁の職員など
上場会社等の帳簿閲覧権を有する者(帳簿閲覧権を有する株主等)や、企業への調査権を持つ者は自らの権限によって該当企業の重要事実を自由に閲覧できるため規制の対象です。
インサイダー取引と見なされる「重要事実」
それでは、インサイダー取引と見なされる「重要事実」とはどのような情報でしょうか。
「重要事実」とは「株式投資をする投資家の判断に影響を与える重要な事実」のことです。これらは金融商品取引法により上場企業に関する事実と、子会社に関する事実に分けられており、「決定事実」「発生事実」「決算情報」「その他(バスケット条項)」「子会社にかかる重要事実」に分類されます。
以下に一例を挙げますが、事例によっては市場への影響が想定されないほど軽微であるため、重要事実にならないことがあるので「重要情報」と判定する際には弁護士などの専門家に相談を行ってください。
決算情報
決算情報は、直近の予想値または、前事業年度の実績値と比較し、新たに算出された予想値、または当事業年度の決算で発生した一定の差異が重要事実になります(業績予想の修正、剰余金の配当、解散など)
合併・買収情報
自己株式の取得、株式無償割当て又は新株予約権無償割当て、株式の分割、株式交換、株式移転、株式交付といった投資判断に関わる合併・買収情報等が重要事実にあたります。
新製品開発情報など
新製品又は新技術の企業化、新たな事業の開始、上場会社の意思に関係なく発生した該当事実と言った、企業価値に影響を与える経営情報等が重要事実にあたります。
インサイダー取引を避けるために
インサイダー取引は組織としての信頼失墜・イメージダウンにつながるばかりか、金銭的なリスクを背負う可能性もあるため、企業は適切な対策を求められます。不正取引をしない、起こさせないことが重要です。そのために、該当企業はルールを定め、従業員・関係者へ定期的な研修を実施することで浸透させ、定期的な監査によって運営体制の管理と見直しを行う仕組みを持つと良いでしょう。
社内規程の遵守
インサイダー情報の取り扱いについて、社内で守るべきルールを定めることが重要です。合わせて、社内外のインサイダー規制について役員・従業員等に知識を定着させ、その違法性を周知徹底するために、定期的な研修実施が有効です。
社内規程の遵守を確認するために、研修の実施状況は内部および外部監査機関の定期調査で確認すべき事項です。
重要情報の漏えい防止
合わせて、未公表の機密情報が外部に漏れて不正利用されないよう、適切な情報管理・体制整備が求められます。当該従業員や役員、関係者と「秘密情報保持規定」等の誓約書を交わし、情報が漏れないように整備することができるでしょう。これらの規定は個人情報保護規制を参考に策定することができるでしょう。こちらの情報管理状況も、内部および外部監査機関の定期調査で確認すべき事項です。
取引前の事前確認など
重要情報に触れる関係者でも、相続で取得した株式を売却したい、家庭の事情により持株会で取得した自社株式を売却したいといった市場取引の希望がある場合、むやみに禁止しては従業員等の権利を阻害することになります。そのため、取引内容を事前に経営管理部等の社内機関に報告をし、インサイダー取引に当たらないタイミングでの取引であることを確認する等の手続きを用意することで、従業員等と該当企業の信頼を守ることができるでしょう。
まとめ
インサイダー取引とは、市場取引の判断にかかる重要な情報を公表前に知り得た者が、自己の利益のためにその情報を利用し、不当な利益を得る犯罪行為です。市場の健全な運営と成長のためにも、決して許されません。インサイダー取引が発覚した場合、取引を行った当該企業または従業員、または情報を提供した者に刑事罰や罰金が科されます。合わせて、職員等は懲戒免職といった社内規定による罰則を受け、企業は社会的信頼が失墜するでしょう。不正取引を行わず、起こさせないことが重要です。M&Aベストパートナーズでは、さまざまな御社の経営に関するご相談をお受けします。ぜひ一度ご相談ください。