2024年5月20日

企業M&Aに欠かせない「負債比率」の読み解き方と活用術

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企業M&Aに欠かせない「負債比率」の読み解き方と活用術

負債比率とは、自己資本に対する 他人資本=負債の割合を示す指数で、企業の財務上の健全性を判断する指標のひとつ。企業の負債比率低ければ低いほど、財務上の安全性が高いと言われています。

今回は企業のM&Aに欠かせない「負債比率」について、その読み解き方や活用方法、計算式やM&A上の影響などを詳しく解説します。

1. 負債比率とは

負債比率とは、自己資本に対して他人資本が何パーセントを占めるのかという比率のことです。自己資本とは、企業が持っている資本のうち、株式から出資してもらった資本金や利益の余剰金などを示します。これらは返済をしなくても良い資本として、純資産に該当します。

一方、他人資本とは返済の必要がある資本のことです。金融機関からの借入金や社債、買掛金や退職金などの引当金などを示し、負債に該当します。負債は将来的に返済しなければならないもので、返済ができなければ企業は倒産します。つまり、負債比率が低い方が倒産の可能性が低くなるため、企業の安全性を測るための指標のひとつとなっています。

2. 負債比率の計算方法

負債比率の計算方法

では、実際に負債比率は、どのように算出されるのでしょうか。

まずは、負債比率の算出方法と、実際の計算例を見ながら確認してみましょう。

負債比率の算出式

会計上の数式には複雑なものが多いですが、負債比率の算出は大変シンプルな数式で求めることができます。

負債比率=(他人資本(負債)÷自己資本)×100

つまり負債比率は、自己資金の中に他人の資本がどれくらいあって、それをパーセントにするために100をかける、という非常にわかりやすい算出式で把握することができます。

有利子負債比率の算出式

負債には、利息がつくものがあります。代表的なのが、銀行の融資に対する利息。その利息がつく負債のことを「有利子負債」といい、自己資本に対して有利子負債が何パーセントを占めるのかという比率を「有利子負債比率」といいます。対して、利息がつかない負債のことを「無利子負債」といいます。

負債比率は有利子負債も無利子負債も合わせて計算しますが、有利子負債比率を求める時は有利子負債のみ、つまり無利子負債を除いた額で計算します。

有利子負債比率の求め方も負債比率と同様、

有利子負債比率=(他人資本(有利子負債)÷自己資本)×100

で求められます。

計算例

では、実際に負債比率を計算してみましょう。

例1 自己資本が2億円、他人資本が1億円の場合

1億円÷2億円×100=50

つまり、この企業の負債比率は50%となります。

例2 自己資本が1億円、他人資本が3億円の場合

3億円÷1億円×100=300

つまり、この企業の負債比率は300%となります。

例3 自己資本が1億円、他人資本が2億円、うち有利子負債が1億円の場合

負債比率:2億円÷1億円×100=200

有利子負債比率:1億円÷1億円×100=100

つまり、この企業の負債比率は200%、有利子負債比率は100%となります。

3. 適正な負債比率の水準

負債比率は低い方が、倒産のリスクも少なく安全な会社と言えます。実際、100%以下であれば、自己資本を用いて他人資本をすべて返済できるため、非常に健全な財務状況と言えるでしょう。しかし、実際には負債比率が100%以下という企業はほとんどありません。なぜなら、業務を拡大していくためには、資金の調達が必要不可欠だからです。経営の観点から見れば、一定の負債比率は企業の成長にとって理想的であるとも言えます。

では、負債比率がどのくらいであれば健全な財務状態であると言えるのでしょうか。一般的には、以下のような判断基準が安全性の目安とされています。

負債比率財務状況
300%以下健全、標準的である
300~600%改善が推奨される
600~900%早期改善が必要
900%以上倒産の危険がある

負債比率300%とは、自己資本に対し他人資本が3倍あるという状態です。計算例2のように、自己資本が1億円、他人資本が3億円の場合がこれに該当します。この状態までは企業の財務状況は健全であるとみなされます。

負債比率が300%を超えると、財務状況を改善することが推奨されますが、倒産の危険性はまだ少ないとみなされます。負債比率が600%を超えると、財務状況が悪化している状態になり、早期の改善が必要となります。

そして、負債比率が900%を超えると、財務状況は破綻状態である可能性が高くなり、返済が困難となり、倒産の危険性が高まります。

4. M&Aにおける負債比率の重要性

M&Aにおいて負債比率は企業の売買価格に重要な影響を与えます。負債比率が低ければ、売り手側の企業は高額での買い取りを望みます。逆に負債比率が高い会社の買収はリスクが高いため、買い手の企業はできるだけ安く購入したいと考えます。

では、実際の買収価格を決める際に、負債比率をどのように確認すればよいのでしょうか。負債比率の観点から買収価格を決めるための確認事項について紹介します。

買収価格算定への影響

負債比率は、企業の買収価格に大きな影響を与えるものです。売り手にとっても買い手にとっても、重要な財務状況の判断基準になります。前述の通り、負債比率の計算式はシンプルで簡単ですが、有利子負債の範囲を判断するには経験と専門的な知識が必要不可欠です。

例えば、ある中小企業で親族からお金を借りた際、経営者側は利息を支払う気はなかったとしても、親族側は書面での決まりはないものの利息をもらえるものだと思っていたとします。この場合、借りたお金を有利子負債にするか否かは簡単に判断できません。このように、企業の中には財務状況を完全に把握できていないケースもあるため、負債比率の判断は専門家のサポートを受けることをおすすめします。

デューデリジェンスでの確認事項

負債比率を正しく知るためには、デューデリジェンスを確認する必要があります。デューデリジェンス(Due Diligence)とは、日本語で「適正評価手続き」を意味する言葉です。財務デューデリジェンス(財務DD)は、対象となる企業または事業の財務について、その状況やリスク・課題などを検討する調査を示します。

財務DDは、主に以下の流れで作成します。

  1. 財務上の状況やリスク、運営状況を把握するために、財務DDの専門レポートを作成する。
  2. 担当者や専門家が、1で収集したレポートやデータを分析する。
  3. 2に対する疑問点があれば提出し、その解決策を反映する。
  4. 分析結果を共有してフィードバックを受け、それらを参考にして財務DDを完成させる。

財務DDを作成することで、企業が持つ正確な資産と負債が貸借対照表に掲載されます。作成は当然、M&Aの最終締結前に行う必要があります。作成された財務DDで正しい負債比率を把握することが、互いのリスク回避に役立ちます。

5. 負債比率の改善方法

負債比率の改善方法

会社の安全な運営の把握に必要不可欠な、負債比率。負債比率を改善することは、財務を健全化や倒産のリスクを減少させる効果があります。

負債比率を改善する方法には、

  • 自己資本を増やす
  • 負債を減らす

という、2つの方法があります。

前出の通り、負債比率は(他人資本(負債)÷自己資本)×100で算出されます。そのため、自己資本が増える、もしくは負債が減ることで、負債比率は必然的に低下します。

それぞれの具体的な手段について、確認してみましょう。

自己資本の増強

自己資本を増やすには、以下の2つの方法があります。

  • 株主割当増資:現在の株主に対して、新た株式を発行する
  • 第三者割当増資:特定の第三者に対して、新規に株式を発行する

これらは負債比率の低下に効果的である一方、株主の議決権に対する問題発生や実際に株式の買い手がつくかなどのリスクもあり、慎重に検討する必要があります。

負債の返済・資本化

負債を減らすには、以下の2つの方法があります。

  • 純利益を増やして負債を返済する:販売単価を上げる、新規客を開拓する、固定費を削減するなどで売り上げをあげて純利益を増やし、返済を行う
  • 資産を売却して負債の返済に充てる:活用できていない土地や未使用の機械などを売却し、得た資金で負債の返済を行う

負債を返済すれば、当然負債比率も改善します。企業の状況を把握しながら、適切に行うことが大切です。

まとめ

M&Aを成功させるためには、負債比率を指標として企業の経営状態を正確に把握することが重要です。負債比率自体はシンプルな計算式で算出できますが、有利子負債など正確な負債は企業でも把握できていないかもしれません。財務デューデリジェンスを行う、専門家にアドバイスを求めるなど、その企業の本当の価値を見極めることが大切です。

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