新NISAの開始や長引く低金利などの影響を受け、金融資産の人気は貯蓄から投資へと変化しています。
そこで注目されている株式分割とは一体どのようなものなので、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
そこで本記事では、株式分割の概要や企業・投資家それぞれの視点によるメリットとデメリットについて詳しく解説します。
あわせて、株式分割の手続きの流れや実際に株式分割を行った企業事例などをご紹介するので、投資家の方はもちろん、株式分割を検討されている経営者の方はぜひ参考にしてください。
目次
株式分割とは
株式分割とは、既に発行されている株式をより細かく分割し、発行済み株式総数を増やす方法です。
株式分割の仕組み
ある企業の株価が1株1,000円だったとします。この株を株式分割により10株に分割すると、1株当たりの単価は1/10の1株100円となります。
この企業の株式発行数が1万株だったとすると、発行済み株式の総額は1千万円です。
株式分割によって1万株の株は10万株に増えますが、1株あたりの価格も1/10となるため、発行済み株式の総額は1千万円のままです。
株主の立場でもこれは同様です。
この企業の株式を10万円分の100株を保有していたとします。株式分割によってこの株主の株は1,000株に増加しますが、株価も1株100円となるため、保有株式総数が増えても総額は変わらず10万円となります。
株式分割と増資の違い
株式分割と増資の違いは、資本金等の額に変動があるか否かです。
増資とは企業が新たに株式を発行し、その対価として投資家から出資を受け資金調達を行います。
一方、株式分割は総株式数は増加しますが、その比率に伴い1株あたりの株価は下がるため資本金等に影響はありません。
株式分割の目的
株式分割を行う目的について、詳しく解説します。
株価の適正化
株式を購入する際の現在の株価が妥当かどうかを判断する基準として、「PBR」と「PER」という指標があります。
PBR(Price Book Ratio)は株価純資産倍率を指し、株価が企業の「1株当たり純資産(簿価)」の何倍かを示す指標です。
PBRは、株価を1株当たり純資産(純資産÷発行済株式数)で割ることで算出できます。
一方のPER(Price Earning Ratio)は株価収益率のことで、株価が1株当たり純利益の何倍になっているかを示す指標です。
PERは株価÷1株当たり純利益で算出でき、現在の企業の純利益に対して株価が割高か割安かの判断基準となります。
PBRやPERに大きなズレが生じている場合、株主からの投資機会が減少します。
そこで、1株当たりの価格を下げて株価の適正化を図ることを目的として、株式分割が行われます。
株式の流動性向上
株式分割で得られる最大のメリットは株式の流動性の向上です。
株式分割を行った場合、1株あたりの価格が下がるため、特に個人投資家の参入ハードルが下がり、株式取引が活発になります。
また、価格が下がることで取引数も増加しやすく、株式の流動性向上が期待できます。
上場市場の変更の準備
株式分割は上場市場の変更準備として行うケースもあります。
企業が上場をする際、株式の1単元を100株とすることが定款で決められています。また、それぞれの市場ごとに、株主数や流通株式数に下限が定められています。
例えば東証の場合、プライム、スタンダード、グロースそれぞれの市場では、以下のような株主数・流通株式数の規定があります。
市場 | 株主数 | 流通株式数 |
プライム市場 | 800人以上 | 2万単位以上 |
スタンダード市場 | 400人以上 | 2千単位以上 |
グロース市場 | 150人以上 | 1千単位以上 |
【企業側】株式分割のメリット
株式分割を行うことによって、企業側には主な以下のようなメリットがあります。
株価の適正化による投資家層の拡大
株式分割によって株価が適正化すると、投資家の層が拡大します。
特に近年では新NISAの導入に伴い、個人投資家が増加して株式の流通がより活発化しているため、1単元あたりの購入負担が減ることで新たな投資家層の参入が期待できます。
株式の流動性向上
株式の流動性が高められることは、株式分割で得られる大きなメリットです。
株式の取引量増加によって流動性が高まることは、短期・中長期投資家や機関投資家にとって魅力あるものになり、企業価値向上につなげられる可能性もあるでしょう。
【投資家側】株主分割のメリット
株式分割は、投資家側にとってもメリットがあります。
株式の取得がしやすくなる
株式分割によって1株あたりの価格が下がることで購入がしやすくなり、株取引がより身近な存在となります。
株主優待の権利が増える
株主優待を目当てにしている投資家は少なくありません。
株式分割がされることで投資家はより多くの株式を保有し、株主優待の権利を増やすことができます。
NISA口座への組み入れがしやすくなる
NISA口座で保有している株式が分割されたとしても、その株式はNISA口座へ組み入れられます。
そのため、追加で非課税枠を使う必要はなく、NISA期間中であれば引き続き非課税の対象となります。
【企業側】株式分割のデメリット
さまざまなメリットがある株式分割ですが、デメリットも存在します。
株価が急激に下落するリスク
株式分割は話題性があり、「株価が上がるのでは?」といった期待によって短期的な売買が増えて価格変動が起きやすいです。
値動きが不安定となり株価が急激に下落するリスクは、企業にとって大きなデメリットです。
手続き費用の発生
株式の分割手続きには多くのコストと時間がかかります。
法的な手続きや証券取引所への報告、既存の株主への通知など、各種手続きとそれに伴うコストは一時的とはいえ企業の純利益低下につながります。
業務負担の増加
株式を分割すると、管理すべき株主の数も増加します。
株主名簿の管理や株主総会の運営など、事務的な業務負担が増加する可能性があります。
【投資家側】株主分割のデメリット
株式分割は、投資家側にもデメリットが発生します。
株価が下がるリスク
株式分割は、株価の下落につながるリスクもあります。
株式分割によって株価が下がることで株式の取引量は増加します。しかし、同時に価格の変動幅(ボラティリティ)も高まりやすくなり、株価の安定性が損なわれるリスクが生じます。
株式分割の事例
実際の企業で行われた株式分割の事例を見てみましょう。
NTTによる株式分割
市場関係者を大きく驚かせたのはNTT。2023年6月末に1株を25株に分割しました。分割後も1株あたりの株主優待が変わらないとあって、購入希望者が殺到。若年層の投資家を多く呼び込むことに成功しました。
トヨタによる株式分割
トヨタ自動車は2021年9月に、1株を5株に分割する1:5の比率で株式分割を実施。この株式分割は1991年以来、実に30年ぶりのもので、「株価が高く投資が難しい」という投資家の意見に対応し、個人投資家が株式を購入しやすくすることを目的として行われました。
任天堂による株式分割
任天堂は2022年10月日付で1株を10株に分割しました。分割前は約600万円だった投資単位が約60万円に下がったことから、個人投資家が多く参入するようになり、株価は大きく上昇しました。
株式分割の手順
株主分割の手順を解説します。
取締役会または株主総会での決議
株式分割は取締役会または株主総会での決議によって始まります。
取締役会設置の企業は取締役会、取締役会を設置していない企業では株主総会で普通決議を行う必要があります。
株主への公告
取締役会または株主総会で株式分割が決定したら、株主への公告を行い、株式がいくつに分割されるのか、また株主に割り当てられる株式数を通知します。
基準日の決定
続いて、株主が増加した株式の割り当てを受け取ることができる基準日を決定します。
なお、株主分割の基準日が決定したら、その2週間前までに告知を行うことが会社法によって義務づけられています。
効力発生日
基準日の決定、また告知が完了したら、実際に分割された株式が発行されて株主の持株数が変更される効力発生日を迎えます。
法務局への変更登記申請
株式分割を行った企業は、会社の登記簿に対して株式数の変更を申請しなければなりません。申請は企業の本店所在地を管轄している法務局に対し、2週間以内に実施する必要があります。
まとめ
株式分割は、株価の適正化や投資家層の拡大、流動性の向上などさまざまなメリットがある一方で、過度な期待による急激なカカウの変動といったリスクも伴います。
そのため、株式分割を実施する企業はもちろん、投資家の方も目的や背景を理解しておくことが大切です。