M&Aの実施を検討する際の相談先として、多くの経営者が銀行を選んでいます。
ただし、銀行との交渉には利益相反など注意すべき点もあるため、相談先は慎重に選択すべきでしょう。
そこで、この記事では、M&Aの相談先の1つである「銀行」にフォーカスして、役割や相談時の注意点を解説します。
目次
M&Aにおける銀行の役割とは
まずは、M&Aにおける基本的な銀行の3つの役割について解説します。
アドバイザリーを提供する
銀行のアドバイザリー業務は、M&Aプロセス全体にわたり、企業が効果的かつ戦略的に取引を進めるための専門的なサポートを行えます。
具体的には、M&A戦略の策定、候補先の選定、交渉のサポート、そしてデューデリジェンスの実施などです。
戦略策定では、銀行は依頼先企業のビジョンや目標に基づいて、最適なM&A戦略を共に練り上げます。なお、候補先の選定においては、市場動向や業界分析を通じて適切なパートナーを見極め、企業の長期的な成長に貢献する案件を特定するでしょう。
交渉段階では、銀行のプロフェッショナルなアプローチにより、高条件での合意締結を支援します。
また、デューデリジェンスでは、財務や法務などの各側面で詳細な調査を行い、潜在的なリスクや機会を洗い出すことで、トランザクション(取引)の成功に向けた準備が整うでしょう。
資金融資を行う
銀行は、M&Aにおいて企業が必要とする資金を調達する際に必要な存在です。
M&A取引には多額の資金が必要であり、その資金調達の手段として銀行が提供する「融資」が頻繁に活用されています。この融資は、企業が他社を買収する際の取引金額や関連する経費、再編に伴う費用などを確保するために利用されます。
特に、中小企業は自己資本が限られている場合が多く、大規模な取引に必要な資金を自己資本だけでまかなうことは難しいため、銀行から融資を受けることが一般的といえるでしょう。
債権者として関与する
銀行は、既存の融資の債権者として、M&Aに関する手続きに関与することがあります。
例えば、買収後に銀行は買い手企業の返済計画や財務状況を確認し、債権者としてのポジションを保つために慎重に手続きを行います。
M&Aによって、売り手や買い手企業の債務履行能力が変動する場合、銀行は債権者として、その影響を受ける可能性があるでしょう。なお、会社法ではM&Aのスキームに応じて債権者の権利を保護する規定が設けられており、企業はこれにしたがって債務者としての責任を果たす必要があります。
また、資金力のあるスポンサー企業が債務超過企業を買収する場合、銀行との間で債権放棄やデット・エクイティ・スワップ(借入金の一部を株式に交換する手法)などの交渉が行われるかもしれません。
そうなれば、債権者としての銀行は新しい経営陣や資本構造に適応し、取引後の企業の安定的な運営を支えることになるでしょう。
M&Aにおける投資銀行の役割
投資銀行は、一般の商業銀行とは異なり、「証券業」の一環として、M&Aに特化した専門的なサービスを提供しています。
投資銀行はM&Aアドバイザリーに特化した部門を保有していることが多く、企業に対して専門的なアドバイスが可能です。これには、M&A戦略の策定、候補先の選定、評価、およびデューデリジェンスの実施などが含まれます。
さらに、投資銀行は交渉や契約の締結においても、法律面での専門的なサポートが可能です。また、契約締結においては法的な側面に配慮し、スムーズな取引の実現に向けて協力してくれます。
M&Aで銀行を利用するときの注意点
続いて、M&Aで銀行を利用する際の3つの注意点について解説します。
利益相反の可能性がある
銀行がM&Aアドバイザリーを提供し、かつ同時に買い手に対して融資を行う場合、潜在的な利益相反のリスクが存在します。利益相反とはどちらかの一方に利益が偏ることです。
この状況では、銀行は買い手に対して、できるだけ安い価格でM&Aが成立するように尽力する可能性があります。そうなれば、取引の締結が早まり、銀行にとっての利益が最大化されるでしょう。
このような行為が売り手にとって不利な取引を導く場合、それは利益相反行為と見なされます。銀行はアドバイザーとして中立性と公平性を保ちながら取引を進めるべきですが、融資の要因が介在することで、その中立性が損なわれる可能性があるでしょう。
したがって、企業は銀行との契約時に十分な注意を払い、契約書には中立性を確認するための適切な取り決めを盛り込むことが重要です。
銀行によってアドバイザリー業務が異なる
M&Aにおいて、銀行が提供するアドバイザリー業務は、地方銀行、メガバンク、外資系投資銀行などによって異なるのが一般的です。
地方銀行は、地域に特化した中小企業向けにサービスを提供しており、そのアドバイザリー業務も地域経済や地域産業に焦点を当てた特有の知識を有しています。
一方で、メガバンクは国内外の大手企業に対して包括的な金融サービスを提供しており、広範で多岐にわたるアドバイザリー業務を行います。
外資系投資銀行は、国際的な経験やグローバルネットワークを持つため、大規模なM&A取引に特化しているでしょう。高度な専門知識と国際市場における洞察を提供し、複雑なクロスボーダー取引にも対応します。
上記のように、銀行の種類によって提供できるアドバイザリー業務が異なるため、企業はM&Aの目的や戦略に合わせて、最適な銀行を選択する必要があるでしょう。
例えば、地域密着型の取引であれば地方銀行が適しており、国際的かつ大規模な取引には外資系投資銀行が適している可能性があります。銀行の特性を理解し、戦略的なパートナーシップを築くことがM&Aの成功に欠かせません。
手数料が適正かを確認する
銀行の手数料は、M&A仲介会社など、他の相談先に比べて高額なケースがあります。そのため、企業は慎重に手数料の内容を検討し、適正な価格なのかを確認しましょう。
手数料の適正性を確認するには、他のM&A仲介会社やアドバイザーが提供するサービスとの比較がおすすめです。手数料は取引の規模や複雑さによって変動するため、同じ条件下で他の提案を検討するようにしましょう。
具体的には、過去の取引事例や市場標準の手数料率を調査し、提案された手数料が合理的であるかを確かめることがよい判断基準となります。
また、手数料に含まれる具体的なサービスやアドバイザリーの範囲も確認すべきです。高い手数料が正当化される場合もありますが、それは高品質で包括的なサービスが提供されていることを意味します。
一方で、手数料が高いにもかかわらず提供されるサービスが他の選択肢に比べて不足している場合もあるため、慎重に検討するようにしましょう。
銀行から融資を受けるためのポイント
銀行から融資を受けるには、以下の3つのポイントに留意しましょう。
融資の審査に備える
企業が融資を受けるには、財務状況や将来性、そしてM&Aの目的・戦略を明確に整理し、これらの情報を銀行に提供する必要があります。
財務状況の健全性や事業計画の説明は、銀行がリスクを評価し、融資を決定するうえで重要な判断材料となるでしょう。
また、過去の取引履歴がある場合、それが銀行との信頼関係を構築する材料となります。そのため、良好な取引履歴があれば、融資の審査を通過しやすくなる可能性が高まるでしょう。
返済期間や返済方法を交渉する
企業は銀行との交渉を通じて、融資金利や返済期間、返済方法などについて明確な合意を形成することが重要です。
金利は融資のコストを決定する要素であり、返済期間や方法は企業にとって財務計画の一環となります。
返済期間については、企業の事業計画やキャッシュフロー予測に基づいて検討しましょう。事業の性質や将来の収益性に合わせて、銀行と協議して長期的か短期的な返済期間を決定します。
また、返済方法についても、元本均等返済や元利均等返済などのオプションを検討し、企業の財務戦略に適した方法を選択します。
銀行との交渉においては、企業は自身の財務状況や将来の成長計画を的確に説明し、納得できる条件で進めるべきです。
柔軟性を持った返済条件やリスクヘッジ策の導入など、相互に利益が最大化する取り決めが形成できれば、融資の円滑な実行と企業の持続可能な成長につながるでしょう。
複数の銀行に相談して比較する
企業が融資を検討する際には、複数の銀行に相談し、条件や金利などを比較することが重要です。
銀行によっては、融資条件が細かく設定されているケースもあるため、それぞれの特性を理解したうえで比較検討したほうがよいでしょう。
複数の銀行に相談することで、それぞれの銀行の提案や条件を明確に把握できます。
金利や返済期間、手数料などの条件を比較検討することで、コストやリスクを最小限に抑えつつ、企業のニーズに最適な融資プランが見つかるでしょう。
また、複数の銀行との交渉は競争原理を活用する手段でもあります。銀行同士が競り合うなかで、より有利な条件を引き出すことで、企業にとって高条件で融資を受けられる可能性があるでしょう。
M&A仲介会社と銀行の違い
銀行は、買い手に対して融資を提供し、M&Aに関連する資金調達をサポートします。ただし、銀行による融資の手数料は一般的に高額です。
一方で、M&A仲介会社はM&Aに特化した専門的なアドバイスとサポートを提供し、買い手と売り手を効果的にマッチングする能力に長けています。
仲介会社の強みは、豊富な業界知識やネットワークを活かし、最適な取引相手を見つけ出すことです。さらに、交渉や契約締結における法的な専門知識とサポートが得られるため、取引の成功に向けたリスクヘッジが行えます。
企業が最適な相談先を見つけるには、銀行とM&A仲介会社の適切な組み合わせを検討し、取引の成功に向けて戦略的なパートナーシップを築くことが重要といえるでしょう。
まとめ
銀行はM&Aにおいて、買収資金の主要調達先であり、既存融資の債権者としても関与します。
融資獲得には、買収後の見通しを銀行へ的確に提示する必要があり、事業再生時にはスポンサー企業との複雑な交渉が求められます。
銀行が自社にとって優良なアドバイザリーになる可能性もありますが、利益相反には注意が必要です。
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