M&Aストーリー
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M&Aストーリー
株式会社FiNE
M&A成約事例
譲渡企業
株式会社FiNE
代表取締役 平井 文朗氏 インタビュー
「訪問薬剤ステーションを作るのが長年の夢だったんですよ。勤め人のままでは実現できないので、自分でやろうと思い開業しました」そう話すのは、株式会社FiNEの代表取締役、平井文朗(ひらい・ふみお)氏だ。
FiNEは在宅訪問メインの調剤薬局「りおん薬局」を、都内・千葉・埼玉に1店舗ずつ運営する。
りおん薬局は、院外処方の外来調剤をベースにしながら在宅患者に向けた訪問調剤にも力を入れているのが大きな特徴で、今回はM&Aベストパートナーズ(以下MABP)の仲介で東京・板橋の本店を事業譲渡した。
薬剤師でもある平井氏が在宅医療に興味を持ったのは、祖母の入院がきっかけだ。
新卒で入った大手製薬会社で日本一の営業成績を目指す2年目のある日、祖母が倒れたという報せを受けて市民病院に駆けつけた平井氏。
病室が満室だったとの理由で、祖母は薄暗い廊下にベッドが置かれて寝かされており、たくさんの管につながれていた。
「営業で回る医局とはまるで景色が違って驚きましたが、それよりも家族から『あの管から流れているのはどんな薬なの?』と聞かれて答えられなかったことがショックでした。製薬会社に勤務しているとはいえ、薬剤師の資格があるのに……。あの時は本当に辛かったですね」と平井氏は告白する。
在宅医療を多く実施していた医師にこの出来事を話したところ、「私のところで修行しないか」と誘われた平井氏は、休日を返上してカバン持ちをしながら現場で在宅医療のノウハウを学ぶ。
「当時の勤務地では在宅医療が進んでいました。その先生は『これから在宅医療の時代がくる。薬剤師は医師や看護師とチームを組み、地域医療を支える存在になる』と、17年以上前から指摘していたんです」と平井氏は述懐する。
並行して製薬会社で満足のいく営業成績を成し遂げた平井氏は、在宅事業部を立ち上げたばかりの薬局に転職し、社会人4年目にして薬剤師としてのキャリアをスタートさせた。
念願の在宅医療に携わることになった平井氏だったが、待ち受けていたのは「無力感」だった。
「初めての在宅医療の患者さんは、5歳の男の子でした。その子は公園で遊ぶ子どもたちを指差して『あの中に入ってサッカーするのが夢なんだ』と話してくれたんです。私は『入れるよ、頑張ろうね』と声をかけたんですが……」そう明かす平井氏。
男の子は数カ月後に容態が急変し、小学校に上がれないまま亡くなってしまう。
参列したお葬式で、男の子の母親が泣きながら手を握りしめ「ありがとうございました」と言ってくれたが、小さな棺を目にした平井氏には悔しさと無力感しかなかった。
「その子のこともご家族のことも、何一つ知らなかったんですよ。私は薬を届けるただの宅配屋でした。祖母の時から進歩していない、何やってるんだろうと」と平井氏は唇を歪める。
「このままじゃダメだ、一から勉強しよう」と一念発起した平井氏は、2009年から地元の大阪や東京で在宅専門の薬局を渡り歩く。同じころ、在宅事業の社外講師としての講義活動も始めた。
そして2017年、縁もゆかりも無い東京・板橋で「りおん薬局」を開業。
紆余曲折あったものの、平井氏は「地域に根ざし、子どもからお年寄りまでカバーできる薬局を作りたい」という夢を、ついに具体化させた。
「今のお店を、さらに発展させることもできました。しかし、私の中では在宅事業により専念したいという気持ちが強くなったんです」今回、本店を譲渡した理由を平井氏はこう話す。
独立は果たしたものの、平井氏にはヒト・モノ・カネといった経営資源や経営者としてのノウハウはなく、知名度不足で調剤依頼も少ない中でのスタートだった。
幾度となく倒産の危機が訪れるが、平井氏は必死に働き乗り越えていく。
徐々に依頼先が増えていく中で、全国で6万軒もある薬局が末期がんや難病の方にとっては足りていないことが分かると、彼らからの依頼は無条件で受け入れ、24時間体制でサポートした。
いつしか、りおん薬局の名前は広まり、経営も上向くようになる。
開業から8年で当初目標としていた売上規模を達成した上に、地域で「在宅医療で困ったらりおん薬局」と言われるほどの存在にまでお店を成長させたのだ。
しかし平井氏は、在宅医療を志した当時の想いを忘れていなかった。
「ここまでくるのに、多大な経営資源と時間を費やしてきました。ただ私は、このまま発展させるより、自分がやりがいを感じている在宅医療に事業を特化したかった。それには、今の板橋の本店では大きくなりすぎて難しかったんですよ」と平井氏は振り返る。
2023年12月、ついに在宅医療への専念を決意すると、平井氏はM&A仲介会社2社に本店譲渡のサポートを依頼する。当初、その中にMABPは含まれていなかった。
「ある日、たまたま書類を整理していたらMABPさんのDMが目に入ったんですよ。今までなら捨てていたんですが、この時は何か縁を感じてこちらから連絡しました」と、平井氏はエピソードを交えて話す。
連絡を受けたMABPは岡田アドバイザーを担当に据え、同年12月16日には平井氏との初回面談を行った。
「私の中ではMABPさんは3番手だったんですが、最終的にはお任せしました。岡田さんのレスポンスの速さが決め手でしたね」と平井氏は微笑む。
本店を譲渡した後は、その資金で同年4月には在宅医療特化型の新店舗を始めたかった平井氏。
その想いを汲みとったアドバイザーの岡田は、譲渡先となる企業探しに奔走した。
「岡田さんはどんな時でも電話に出てくれました。別に何件か案件を抱えているようでしたがそんな様子は全く見せず、資料を頼むと次に会った時にはビシッと出来上がっていて、質もよかったんです」と平井氏はその働きぶりを称賛する。
岡田を信頼した平井氏は他の2社に断りを入れ、仲介先として正式にMABPを選んだ。
そんな平井氏だが、最初は不安もあったようだ。
「ちゃんと紹介してくれるのか、自分の情報だけ取られて終わるのではないか、営業でいいように使われるだけなのではないか、どれくらい手数料がかかるのか……。いろんな不安が浮かびました」と明かす。
知り合って間もなかった岡田を最初は疑いつつ、信じて自社の情報を開示した平井氏。
「岡田さんと会ってからは変に疑うのを止めたんです。結局のところMABPという会社ではなく、私が岡田さんを信じるか信じないかということだと思いましたから。最終的に譲渡手続きの全てを岡田さんに任せたことで、自分は仕事に集中できました」と笑った。
今回、平井氏が本店を譲渡した相手は、株式会社アインファーマシーズ(以下アイン社)だ。
調剤薬局業界トップの企業で、親会社に「アインホールディングス」を持つ。北海道を本拠に全国で1,230以上もの薬局を抱え、約15,100人(うち薬剤師は約 6,470人)の従業員数を誇る、まさに巨大グループである。
翌年の1月17日、初めて岡田と会ってから実に1ヶ月という早さで、アイン社とのトップ面談を果たした平井氏。
アイン社の印象について「大きな会社でしたが、小さな薬局である我々を1つの会社として対等に接してくれました。それで『これは信頼できる、大丈夫だ』と直感したんです。アイン社からはキャリアの長い執行役員さんに加えて、私も知っている現場出身で地域医療のトップの方も同席していました。譲渡先の条件の1つとして『現場を大切にしてくれるところ』を挙げていましたので、まさに私の思い描くお相手だったんですよ」と回顧する。
アイン社を交渉相手として紹介した岡田は「りおん薬局の『重度の患者様に特化された在宅医療』は特殊なので、普通の会社では対応できないと感じていました。アイン社の組織力と業界トップ企業の適切な仕組みがあれば、平井さんが作り上げてこられた薬局をさらに良い方向へ導かれると思いました」と選定理由を話した。
その後の交渉はトントン拍子に進み、TOP面談から51日後の3月6日に譲渡契約を結ぶ両社。
交渉を終えた平井氏は「アイン社は先のM&A仲介2社からも名前は出てきませんでしたし、私ひとりだったら交渉できないお相手でした。タイミングも合って、本当によかった」と胸をなで下ろした。
「新しい事業に資金が必要だったこともあるんですが、実は私、ゼロからイチを創るのが好きなんですよ」そう言って、平井氏は笑う。
在宅調剤を事業のメインに据え、8年かけてようやく形になったりおん薬局。
なんと平井氏は本店の譲渡後、この過程をもう一度再現するというのだ。
「りおん薬局の事業を通じて、人とのコミュニケーションの取り方や人脈の作り方を培ってきました。このノウハウが次でも通用するのか試してみたいんです。前回より短いスパンで地域も限定し、医療・介護・福祉などの社会保障を適正に運用する在宅訪問特化型の薬局を作り上げることで、その必要性を国にも示したいですね」と平井氏は意気込む。
そして「もう1つ目標があって、医療保険や介護保険が選択されていくようになる中で、薬局を病院にかかる前に相談できる場所にしたい。『健康寿命をいかに伸ばしていくか』という視点での活動など、これまでとは違うアプローチでお店を作りたいですね」と付け加えた。
今回の事業譲渡で本店の運営から手が離れ、他2店舗の運営と新店舗立ち上げにリソースを注力できるようになった平井氏。
営業活動も上々で、すでにいくつかの施設と契約を交わしており、別に押さえたテナントには新たな本社機能を置く予定だ。
再び小さなところからのスタートだが、今度は10店舗くらいまでに大きくしたいという。
平井氏はまた「様々なところで講義、講演をしているので、落ち着いたら活動を再開したいですね。そうそう、子どもと遊ぶ時間も作りたいなぁ。ワクワクしていますよ」と、今後について楽しげに話してくれた。
アドバイザーの岡田は「平井さんは本当に多忙な方でしたので、ご負担をかけないよう配慮しました。お互い関西出身ということもあり自然と波長も合い、裏表なく接していただけました。平井さんとは本音で建設的な会話ができましたので、成約まで同じ方向を向いて走ることができました。」と振り返る。
さらに「会社ごとに事情は異なりますが、M&Aは初めてお会いしてから成約まで半年から1〜2年とかかることもあります。約3ヶ月でのスピード決着となったのは、お互いに信頼できたからでしょう。これからも平井さんとは仕事でもプライベートでも良い関係を続けていきたいです」と今回の成約を振り返った。
新しい事業に踏み出す平井氏を、これからもMABP一同でサポートしたい。
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
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