M&Aストーリー
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M&Aストーリー
株式会社双葉製作所
M&A成約事例
譲渡企業
株式会社双葉製作所
代表取締役 松岡 裕巳氏 インタビュー
「前の社長が急死してしまって。14年間、無我夢中で経営してきました」と語るのは、今回M&Aベストパートナーズ(以下MABP)の仲介でM&Aを実行した株式会社双葉製作所の代表取締役、松岡裕巳氏だ。
双葉製作所は1952年(昭和27年)に松岡氏の祖父兄弟が始めた工場で、現在はアルミ鋳造技術をベースにウレタン発泡金型を制作している。
この金型は、自動車やオフィスチェアのシートに使われるクッション材の成形に必要不可欠なもので、従業員は24名と小規模だがその技術力には定評があり、特に自動車用シートでは国産メーカーのほぼ全社と取引がある、今年で創業72年目の老舗企業だ。
代表の松岡氏は、会社のある東京都八王子市で生まれ育ち、幼いころ会社は遊び場だったそうで「休日に父親に連れられて工場を訪れることが多く、フォークリフトを触ったりしていましたね」と懐かしそうに語っている。
会社は兄が継ぐものだと思い、学生時代はサーフィンを楽しむなど気ままに過ごした松岡氏。
一方で、実家の事業を見て育ったため、幼少の頃からものづくりを仕事にしたいと考えており、大学卒業後は自動車のボディを作る会社に4年ほど勤務し、バブルが弾ける直前で多忙の日々を送る中で、親族から「家業を手伝って欲しい」という要請を受けたことをきっかけに、1991年に退職して双葉製作所に入社することとなった。入社後は特に経営には携わることなく、主に技術関係や顧客管理などを手がけてきた。
ところが14年前、事態は急転する。前社長が突然亡くなってしまったのだ。
そしてこの時、周囲で会社を継げる状況にいるのは、松岡氏だけという状況でもあった。
リーマンショック後という最悪のタイミングだったが、「一緒に働いてきた仲間のことを思うとこのまま会社を終わらせる訳にはいかない」と考え、同氏は会社を継ぐことを決心した。
「右も左も分からない私でしたが、税理士や周りの人に支えていただき、何とかここまで経営してこれました」と、松岡氏は当時から現在までを感慨深そうに振り返った。
「何が何でも身内に継がせるという考えは、もともとなかったんですよ。無理やり娘や旦那さんを引っ張ってきて、大変な思いをさせるのもどうかと思って」と打ち明ける松岡氏。
双葉製作所は創業当時から、一般的な鋳物づくりを手がけてきたが、時代が大きく変化する中、そのままでは過当競争に巻き込まれてしまうと考えた同社は、付加価値を高めるため、特に自動車製造で大きな需要のあるウレタン発泡型への専念を決断する。
業界で生き残るための選択と集中は功を奏し、現在では国内の自動車メーカーほぼ全社のシートを手掛けるまでになった。
そんな双葉製作所を継いだ松岡氏だったが「毎日のように想定外の事態が発生するため、この14年間、気が休まることは無かったですね」と、これまでの歩みを述懐する。
ただ、社長業とプライベートは区別するよう強く意識しており、自分の時間や友人との関係を大切にしながら仕事にも励んできた。
「もちろんつらい時期もあり、仕事の都合で友人との予定が飛んでしまうこともありましたが、何とか分けてやってきたつもりです」と松岡氏は笑う。
実際、サーフボードの上に立ちパドルで操るSUP(サップ)を本栖湖で興じたり、オートバイで北海道から九州まで各地をツーリングしたりと松岡氏の趣味は広く、一緒に楽しむ仲間も多い。
公私ともに順調に推移していた松岡氏だったが、一方で会社の今後については憂慮していた。
娘は2人いるが、どちらも自分の道を歩んでいる。
他の方面にも適任者はおらず、身内が継ぐ必要はないと考えていた松岡氏は、社内でも「手を挙げた人に会社を任せてもいい」と伝えていたが、名乗りを上げる社員は現れなかった。
「やはりM&Aしかないな」と、ひとり検討を決意した松岡氏は、MABPを含め3社の仲介会社に話を持ちかけたのだが、1社は大手で組織が大きく、領域によって担当者がコロコロと変わる様子を見て断念。
もう1社も担当者がフランク過ぎて合わず、松岡氏は2023年5月、残るMABPと面談することにしたのである。
「M&Aを終えるのは、数年先のイメージだったんですよ。半年でまとまるとは思わなかったですね」と、松岡氏はM&Aの交渉を振り返る。
MABPでは、M&Aアドバイザーとして製造業出身の石田が就いた。
松岡氏は、石田の第一印象について「非常に男前だなと。彼には製造業の経験があって非常に親近感を覚えた」そうだ。
ものづくりの大変さを知っている上に業界にも熟知しており、彼なら大丈夫だと確信した松岡氏は、そのままMABPに仲介を任せることにした。
石田は松岡氏について「物事をよく考えられている社長さんでした。製造業に精通している人でなければM&Aの話を進めるのは難しいなど、しっかりとしたお考えをお持ちでした」と話す。
製造業のM&Aは、業界のことをよく分かっている人間でないとお手伝いできない。
「自分こそ適任である、ぜひお役に立ちたい」そう考えた石田は、譲渡先探しに奔走した。
ただ、松岡氏は不安もあったようだ。
「事業内容がニッチなので、どんな企業が興味を示してくれるのかと。そもそも交渉のテーブルにつけるのか、とにかく心配でした」
他の仲介会社からも「特殊な事業なので、2〜3年はかかるだろう」と説明されていた。
また、交渉で松岡氏が重視したことについて、一番に「社員の立場を守ること」を挙げる。
さらに、顧客や多数の仕入先にも迷惑はかけられないという思いから、今後もメイン事業が継続できるよう配慮できる企業を条件として掲げた。
最終的に石田が引き合わせたのは、福岡県北九州市にある株式会社戸畑製作所だった。
こちらも1948年(昭和23年)創業の老舗企業で、純銅鋳物・銅合金の鋳造加工、溶機加工、難燃性マグネシウムの加工などを手がけている。
同社の代表取締役社長、松本敏治氏とのTOP面談は2023年10月5日に行われた。
初対面の松本氏について、松岡氏は「この社長は私と合うなと直感したんです。ぜひ話を進めたいと思いました」と話す。
長年、社長業でさまざまな人間と会ってきたため、人となりや、自分と合うかどうかはファーストインプレッションで分かるという。
松本氏が示した「意向表明」の文面にも、非常に共感したそうだ。
「その人の性格や想いなどは、使う言葉でにじみ出てくるものです。文章を拝見して、この人となら一緒にやっていけると感じたものですから」と松岡氏は語る。
担当した石田も「複数社とコンタクトを取り、中にはTOP面談も行った企業もありましたが、いろいろと協議をしてきた中で、戸畑製作所との相性や社長の人柄がいいと感じられた松岡氏のご意向を重視しました。先方からも熱意を寄せていただいていたので」と振り返った。
TOP面談後は工場見学を経て、同年の12月27日、100%株式譲渡と松岡社長の続投という内容でM&A契約を締結した。
「想定よりかなり早かったんですけど、これもご縁なので。いい会社さんと出会い、この日を迎えられて本当によかった」と松岡氏は胸を撫で下ろした。
「1社で新しい事業をやろうとしても、人材や設備、資金など、いろんな部分でできることは限られます。ステップアップの手段として、M&Aを選択するのもありでしょう」と話す松岡氏。
譲渡先の戸畑製作所は今後、M&Aを足がかりに自動車業界への参入を目指す。
一方で、同社は銅が中心の鋳造会社でアルミ鋳造は得意ではないことから、松岡氏は「戸畑製作所の顧客を紹介いただきながら、アルミで実現できるようなものであれば我々の技術を活かす。相互補完で、事業をさらに発展させていきたいですね」と会社の今後を見据えている。
松岡氏自身についても、戸畑製作所が進める新事業をサポートしつつ、これまでの自社顧客も紹介するなど、積極的に関与していく姿勢だ。
戸畑製作所がある九州は、松岡氏がオートバイのツーリングで何度も訪れた場所で、地理にも詳しく、これから同地に向かう機会はさらに増える見込みだ。
「普通に暮らしていれば、M&Aには一生関わらないでしょう。経営者でも人生で1回あるかないか。ですから責任重大でした。これまで身体の不調がなく思い悩む性格でもなかったのですが、ここ最近は頭痛が頻発して、心労も感じていましたね」と振り返る松岡氏。
さらに「M&Aは終わりましたが、これが新しいステージの始まりだと捉えています。今のところ、暇をつくって何か別のことをしようとは考えていません。とにかく戸畑製作所さんにご迷惑をかけることがないよう、これからも変わらず社業を進めていきます」と総括した。
担当したM&Aアドバイザーの石田も「それぞれ異なる分野の事業ですが、お客様は重複するところはあるようです。製造業のM&Aですので、お互いの持っているものを融合させながら、相乗効果を出していけたらと思います」と期待を寄せる。
そして「半年という短い期間でしたが、10数回に渡っていろいろと連絡させていただきました。M&Aの交渉は長くなりがちですが、短期間で濃密にやっていく方が双方にとってベストだと確信しています。お忙しい中でも、しっかりとご対応いただいた松岡氏には感謝しています」と続けた。
双葉製作所は、MABPの仲介によって戸畑製作所とのM&Aを無事に終えた。
次の機会には両社の発展ストーリーを伺うべく、引き続き彼らの推移を見守っていきたい。
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
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