「債務超過」、今すぐ倒産してしまいそうな緊迫感が伝わる言葉ですね。実際には、「債務超過」がすぐに倒産につながるわけではありません。しかし、株主評価が下がる、銀行からの新規借入が難しくなるといった影響から、倒産につながる可能性があるため、望ましい経営状況ではありません。では、債務超過はどうやったら避けられるのでしょうか?どのように脱却するといいのでしょうか?
当記事では、債務超過の概念と意味を正しく理解できるよう解説し、解消方法や債務超過企業がM&Aを行う際の注意点等についてご紹介します。債務超過について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
債務超過とは
債務超過を分解して、単語の意味を見てみましょう。債務超過の「債務」とは他者への義務を指します。例えば、代金を支払う義務や借金を返済する義務がこれにあたります。「超過」とは一定の枠を超えるという意味です。そのため、債務超過は「他者への義務が一定量を超えている状態」を指します。ちなみに、債務の対義語は「債権」で、他者から何らかの行為を受ける権利です。
債務超過の定義と意味
では、一定の枠とは何でしょうか。それは貸借対照表(バランスシート/BS)の売上や売掛金などの資産総合計のことです。企業の持つ借入金や買掛金などの負債が、資産総合計を超えている経営状況を債務超過と表します。
ただし、必ずしもすぐに企業の機能が止まるわけではありません。請求の返済期日が長い場合、その後の売上を返済に充てるなど、資金繰りで何とかなる場合も多いでしょう。
赤字や資金ショート、債務不履行との違い
赤字とは、単年度の支出が収入を上回り、利益がマイナスの経営状態を指します。資産が多ければ、超過した資産部分で単年度の赤字をカバーでき、債務超過にはならないでしょう。しかし、赤字が続く場合や金額が大きい場合、資金ショートや債務超過の原因になります。
資金ショートとは、支払いに必要な現金が手元にない状況です。債務超過がその時点の企業の資産をみなし計算しマイナス状況であるのに対し、資金ショートは実際に手元の財布にお金がない状況です。こちらは直接、倒産の原因になります。
また、債務不履行は、契約通りに義務を履行しないことを指します。契約行為に関わる概念であり、企業の経営状況を表す「債務超過」とは別ものです。
倒産リスクの高さ
倒産は期日が到来している債務を弁済できなくなった状態を指します。わかりやすく言えば、今日、支払いに充てるお金がなくなったら倒産です。つまり、資金繰りがうまくいっているうちは、債務超過や赤字であっても倒産はしません。
しかし、債務超過に陥ることで企業信用度が下がり、大手企業との契約が中止されることがあります。また、債務超過が続くことにより、金融機関からの新規借入は不可能になります。
このように、債務超過は倒産の直接原因とはなりませんが、債務超過を原因としたキャッシュフローの悪化により、倒産に近づく可能性があります。
債務超過の原因
では、なぜ債務超過は起こるのでしょうか。主な原因として5つご紹介します。
赤字の常態化
債務超過の一番の要因は「赤字経営」が続くことです。単年度では少額の赤字であっても、現預金から赤字を補填し続けることで、資産が減り、結果的に債務超過に陥ります。
投資のための多額の借入と回収不能
事業投資のために金融機関から多額の借入を行ったが、見込みの利益を出せず債務超過となることもあるでしょう。同様に、サービス提供や商品販売、貸付を行ったが、債務者の経営状況の悪化により債権が回収不能となり、想定していた収益を得られないことが債務超過の原因となることがあります。
資産の評価損や特別損失
保有する株式資産の評価額が急激に下がる場合もあります。例えば、リーマンショックでは有価証券の時価が一斉に大幅に下がりました。また、大地震や津波といった自然災害や事故等による突発的な要因で、臨時出費がかさみ債務超過に陥る場合があります。
開業間もない資本金の少なさ
開業後間もない場合、想定より収益が上がらないことも多いでしょう。いわゆる「創業赤字」です。十分に資産を積み立てられず資本金が少ないことから、結果、債務超過となる場合があります。
経営者の財務管理の怠慢
経営者が財務管理を怠ったことによる債務超過も起こり得ます。赤字が続くことはどの企業にも起こり得ますが、コストカット等により赤字を縮小することが可能です。また、貸借対照表の定期的なチェックが健全な経営のために欠かせません。
手元の現金の流れは倒産を避けるために最も注意すべきポイントです。売掛金と貸付金のタイミングのずれにより、現金化まで時間がかかりすぎ、キャッシュフローが悪化することがあります。この場合、黒字でも倒産することがあります。
債務超過がもたらすデメリット
では、債務超過は企業にどのような不利益を引き起こすのでしょうか。
取引先との関係悪化
債務超過に陥っているということは、健全な経営ができていないことを意味します。企業の信用が落ちることは避けられません。取引先は不信感を抱き、これまでの取引が停止されたり、契約更新ができなくなったり、新規の契約ができなくなる可能性があります。取引先との関係が悪化すれば、売上を増やし債務超過を解消することも困難になるでしょう。
資金調達の制限
多くの経営者は、金融機関の融資を利用していることでしょう。例えば、代金の支払いを受けるまでの時間がかかる業種の場合、次の仕入れに充てる資金の融資を受けることでキャッシュフローを整えることがあります。しかし、債務超過に陥っている場合、金融機関から滞納リスクが高いと判断され、融資を受けられない可能性があります。
倒産リスクの高まり
債務超過が常態化すると、取引先との関係悪化により既存契約の売上を伸ばすことが難しくなり、また金融機関からの融資も見込めず、結果として資金が枯渇し倒産する可能性が高まります。債務超過は倒産の直接的な原因ではありませんが、早急な解決が企業の継続的で健全な経営のために不可欠です。
債務超過からの脱却方法
ここでは、債務超過に陥ってしまった場合の解消方法を紹介します。
利益の確保
当然のことではありますが、収益を増やし赤字を減らすことにより利益を確保することで債務超過を解消できます。経営状況を見直して貸借対照表を改善しましょう。
増資による資本の増強
増資によって資産を増やす方法もあります。増資とは、資本金を増やすことです。新株を発行する、経営者が出資を行う、社長や役員からの借入金を債務免除してもらい資本金に変更する、投資ファンドなどに出資を募るといった方法があります。
債務免除の交渉
債権者から債務免除を認められ、債務超過額以上の債務免除を受けることができれば、債務超過が解消するでしょう。ただし、必ず免除が認められるわけではありません。また、債務免除されたことによる収益には法人税が課税されるため、結果的に負債が増えないように兼ね合いを検討する必要があります。
DES(デット・エクイティ・スワップ)
DESによって負債を減らすことができます。DESとは、金銭債権を有している債権者が、その債権を債務者の株式に振り替えることを指します。DESを活用すれば、債務者の会社にとっては債務が減り、債権者は株主として企業経営に関与できるというメリットがあります。企業努力によっては、当初の債権価値より株式価値が上がることも見込めるでしょう。
法的手続き(民事再生法、会社更生法等)
民事再生法とは、債務超過で経営難になった債務者の事業を再建する法律です。裁判所が選任した管理委員の監督を受けながら、経営者自身で再建を進めます。ただし、自主的な経営が適切ではないと判断された場合には、裁判所の命令で管財人に経営権が移される可能性があります。
会社更生法も民事再生と同じく債務者の事業を再建する法律ですが、再建手続きを進めるのは経営者ではなく、裁判所が選任した更生管財人です。原則として、経営者全員が交代する必要がある点が民事再生法と異なります。
債務超過回避のためのポイント
債務超過は多くのリスクがあり、回避しなければならない経営状況です。回避のためのポイントを見ていきましょう。
定期的な財務状況のチェック
債務超過といった経営危機を回避するためには、財務分析による定期的な経営状態のチェックが欠かせません。財務分析で会社の収益性、安全性、生産性、成長性を分析し、経営状態を把握します。お金の流れが健全な状態に保たれているか、改善すべき点はどこかといった問題点を把握することができます。そして、利益を生み出すサイクルが今後も継続可能か、分析指標で確認することができます。
早期の債務超過の兆候把握
定期的な財務状況のチェックにより、リスクにつながる兆候をいち早く見つけることができ、早急な対策を講じることができるでしょう。
定期的な財務状況のチェックには、外部機関による外部分析と、自社の経営管理、経理、営業統括といった部門による内部分析があります。これらは今後の経営計画の策定、意思決定、経営判断などに使うことができます。また、外部分析によって、自社では拾いきれない経済の動向からリスクのアドバイスを受けることができるでしょう。
迅速な対策実施
債務超過の兆候が見られたときは、原因の特定と改善が急がれます。また一時的なのか、長期的に悪化する可能性があるのか判断に迷った場合には、経営に強い税理士や経営コンサルタントなどの専門組織に相談することも有効な手段です。専門的な知識と実務経験に基づいた、的確な分析や経営計画の立案を受けることができるでしょう。
債務超過の兆候が見られたら、下記サイトの専門家にご相談ください。豊富な実績と確かなノウハウを持つプロフェッショナルが、的確な経営改善のサポートを提供します。
債務超過企業はM&A可能?
それでは債務超過となってしまった企業は、M&Aを行うことができるのでしょうか。結論として、M&Aを行うことができます。営業利益が出ていれば株価がつくことがあります。また、営業赤字であっても何らかのシナジー効果が見込まれて株価がつくことがあります。
債務超過企業のM&A手法(スキーム)
それでは、債務超過企業のM&Aは、どのようなスキームで実行されるのでしょうか。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手が保有する株式を買い手に譲渡するスキームです。中小企業のM&Aにおいて最も多く利用されています。売り手と買い手との間で株式譲渡契約が締結され、契約に従って買い手が譲渡代金を支払い、売り手が株式を交付することで経営権も移譲します。
多額の銀行借入金がある場合には、対象会社の株価に価格がつかないケースが多く、売り手としては、金銭を得られるわけではありませんが、多額の借入金を買い手に引き継いでもらうことができます。役員等借入金が返済できない場合には、買い手企業から対象会社に資金を貸し付け、そのお金で返済します。
事業譲渡
次に事業譲渡について見ていきましょう。この場合、取引の主体が株主ではなく「対象会社」です。赤字事業の譲渡の場合、譲渡事業の純資産がプラスであっても、対価がつかないことがあります。この場合、基本的に対象会社に税負担が発生しません。
黒字事業の譲渡の場合、譲渡事業に見合った対価がつくことが多く、また「のれん代」がつくことがあります。「のれん」とは企業が保有する無形固定資産、ブランド力や技術力、ノウハウなどへの評価です。このとき、対象会社において事業譲渡益が計上され、溜まっていた負債と相殺して税負担を軽減できるでしょう。
吸収分割
吸収分割は、売り手側の事業に関して有している権利義務の全部または一部を他の既存の会社に承継させるスキームです。既存の会社へ権利や債務なども引き継ぎます。売り手企業としては、自社の独立性を維持したままM&Aを行うことができるメリットがあります。
また、黒字事業に特化して事業を継続できるなどのメリットがあり、組織再編に活かすこともできるでしょう。吸収分割では株式以外の財産も対価として交付することができます。
その他の手法(疑似DES)
「擬似DES」とは、通常のDESに現金を介在させ、債権者が金銭出資を行い株式を取得し、その出資で債務の弁済を受けることで負債を削減させる手法です。通常のDESと異なる点は、債権者サイドで損失が計上されないことなどが挙げられます。
まとめ
債務超過=倒産ではないものの、倒産につながるリスクが高い経営状況です。そもそも債務超過にならないよう、経営者や経理担当は定期的に財務状況と経営方針を見直すといった、自社分析を行うことが求められます。万が一、債務超過に陥った場合には企業の信用が下がり借入も難しくなるため、早めに脱却することが必要です。脱却の方法としては、M&Aの手法も検討することができます。M&Aベストパートナーズでは、成長の選択肢としてのM&Aをご提案することができます。債務超過にお悩みの経営者の方はぜひ一度ご相談ください。