企業がプロジェクトを軌道に乗せるためには、ステークホルダーとの連携が欠かせません。そのためにも、ステークホルダーの意味や種類、重要視される背景をきちんと把握しておくことが大切です。
この記事では、ステークホルダーの概要や基礎知識、ステークホルダーがなぜ企業にとって重要なのか、そして企業とステークホルダーの関係はどう構築すればいいのかなど、【ステークホルダー】について徹底解説します。
目次
ステークホルダーとは
ステークホルダーは「企業の活動に対して利害関係を持つ者」のことで、株主や債権者、取引先や顧客、地域社会や行政など、企業側に影響を及ぼす可能性のある個人やグループを表します。英語の「stakeholder」を語源としていて、stakeは掛け金、holderは保有する者、という意味です。
1980年代、アメリカのビジネス倫理学者R・エドワード・フリーマンがストックホルダーをもじって、組織の目標達成に影響を受ける、または与えることができるすべてのグループまたは個人という意味で「ステークホルダー」という言葉を使いはじめました。「ストックホルダー」とは、株主を意味する言葉。似た言葉に「シェアホルダー」という言葉がありますが、ストックホルダー(stakeholder)は株を保有している株主全体を、シェアホルダー(shareholder)は企業の経営に影響を及ぼす大株主のことを表します。
2020年には、世界経済フォーラムにおいて、「ステークホルダー資本主義」がテーマに掲げられました。ステークホルダーと良好な関係を構築することは、企業にとって今や欠かせない重要事項となっています。
ステークホルダーの種類と具体例
ステークホルダーには、直接的ステークホルダーと間接的ステークホルダーの2つの種類があります。
それぞれどのようなものなのか、具体例と共に解説します。
直接的ステークホルダー
直接的ステークホルダーとは、企業に直接影響を与えたり、企業活動の結果で直接的に利益や不利益を受けたりするステークホルダーのこと。
主な直接ステークホルダーには、以下のようなものがあります。
直接的ステークホルダー | 企業との関係 |
顧客・消費者 | 商品やサービスに対して金銭を支払い、企業に利益をもたらす。 消費傾向で、企業の利益や運営に影響を与える。 |
従業員 | 企業と雇用契約を結んでその業務に従事し、給与を受け取る。 企業の目標に貢献して企業を成長させると自身の収入も増加し、企業が衰退すると減収やリストラのリスクが発生する。 |
株主・投資家 | 企業に出資する実質的な会社の持ち主。 企業の利益や損失で、自身も利益や損失を被る。 経営に関わる重要事項や運営の方向性に影響を与える。 |
取引先企業 | 企業の求めに従って、製品やサービスを提供する。 共同で事業を進行・運営する。 企業側と顧客側の橋渡しをする。 |
金融機関 | 企業に対して運営資金を融資する。 企業の資産を守り、増やす。 他企業や金融機関との橋渡しをし、返済などを監督する。 |
間接的ステークホルダー
間接的ステークホルダーとは、企業から直接の影響は与えられないものの、間接的・相互的に影響を与え合うステークホルダーのこと。
主な間接的ステークホルダーには、以下のようなものがあります。
間接的ステークホルダー | 企業との関係 |
行政機関 | 企業が法律や規則を遵守し、社会的責任を果たしているか監督する。 必要に応じて指導や是正を行う。 |
地域社会 | 企業の地域貢献や発展への協力を求める。 地域活動に参加することで、企業イメージを向上させる。 地域に対して、環境保全などを求める。 |
従業員の家族 | 従業員の雇用によって、その家族の生活も安定させる。 福利厚生や健康管理を提供する。 |
メディア | メディアを通して、企業の情報提供を行う。 信頼度や知名度を高める。 |
具体的な事例
では、企業とステークホルダーの間には、それぞれどのような影響があるのでしょうか。
わかりやすく、企業が不祥事を起こしたことを仮定して、各ステークホルダーが受ける影響を例に確認してみましょう。
ステークホルダー | 影響 | |
直接的ステークホルダー | 顧客・消費者 | 信頼喪失や製品への不信、安全性に対する懸念が高まる。 買い控えや競合他社の製品・サービスへ移行する。 |
従業員 | リストラや企業の組織改革が行われる。 士気やモラルが低下し、社内の雰囲気が悪化する。 | |
株主・投資家 | 株価の下落や企業価値の減少など、損失を被る。 信頼が失われ、経営陣の交代を要求する。 | |
取引先企業 | 信頼喪失や信頼度低下の影響を受ける。 生産や供給など、企業経営にも影響を及ぼす。 | |
金融機関 | 企業信用が低下し、融資や投資に対するリスクが上昇する。 | |
間接的ステークホルダー | 行政機関 | 不祥事に対する調査や制裁を行う。 監視や規制を強化する。 |
地域社会 | 企業への信頼が低下する。 地域経済や雇用に影響を及ぼす。 | |
従業員の家族 | 収入減少などの影響を受ける。 | |
メディア | 不祥事を報道することで、企業の信用が低下する。 不祥事の影響が広がり、評判やブランドイメージに影響を与える。 |
ステークホルダーが重要視される背景と理由
なぜ企業においてステークホルダーが重要視されるようになったのでしょうか。
その背景と理由について解説します。
企業価値向上
ステークホルダーを重要視することは、企業価値の向上につながります。
例えば、ステークホルダーの中で特に企業の収益に大きく関わる顧客の満足度を向上させるとします。顧客の満足度が上がり売上が増えると、利益も増加します。すると株価が上昇し、株主の利益や信頼につながります。他企業との取引も活性化し、金融機関からの資金調達もしやすくなります。
また、これらは雇用の安定にもつながり、従業員のモチベーションが上がり、生産性や創造性が向上して企業の競争力が高まります。結果、企業価値が高くなり、企業にとって良いスパイラルが生まれます。
企業の社会的責任
昨今は企業に対して、社会的責任を問う声が大きくなっています。これはCSR(Corporate Social Responsibility)と言われる、「企業は利益追求だけでなく、社会的な責任も果たすべきである」という考えによるもの。自社だけの利益だけでなく、株主や従業員、取引先や地域社会など幅広いステークホルダーへの利益を意識することが、社会全体への貢献につながります。
社会的責任を重要視することは、企業への信頼にもつながります。
持続可能性への関心の高まり
企業はSDGsにおける場面でも、ステークホルダーとの協力や関係性の強化も求められています。
SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称で、2015年に国際連合で採択された、17の目標に対するアジェンダのこと。貧困や飢餓の撲滅、地球温暖化の抑制やジェンダー平等の実現など、2030年までに達成したいゴールを設定しています。
SDGsに対して真摯に取り組まない企業は、今後の市場での競争力が低下するといっても過言ではありません。例えば、中国の新疆ウイグル自治区での人権問題に関連して、日本企業の一部商品がアメリカにおいて輸入停止となり、不買運動が起こったり社会的信用が低下したりという事例もありました。
企業はステークホルダーとの協力を通じてSDGsの達成に向けた取り組みを強化し、持続可能な社会の構築に貢献することも大切です。
リスク管理
ステークホルダーは、企業にとって重要な情報源です。密接に連携することで、企業や製品に対する問題や隠れたリスクを早期に発見することができ、リスクの低減につながります。
例えば、製品やサービスに関して何らかの問題が発生した時、顧客のフィードバックや関係会社との連携によって早急に改善することが可能となります。また、ステークホルダーと良好な関係を築いていると、リスク発生時もステークホルダーからの支持を受けることで、問題解決に対する理解と協力を得やすくなります。
信頼の獲得
ステークホルダーと良好な関係を構築することは、企業の信頼獲得にもつながります。
ステークホルダーへの行動や貢献度は、企業の評価基準にもなっています。信頼のある企業は市場競争力が上がり、同時に企業としてのブランド価値も向上します。
また、ステークホルダーを重視し、親密にコミュニケーションをとる企業は、誠実で透明性があると評価されます。企業が情報隠蔽や不正をすることなくオープンな姿勢を持つことは、ステークホルダーはもちろん社会的な信頼につながります。
ステークホルダーとの良好な関係構築
上記のように、幅広いステークホルダーとの良好な関係の構築は、企業にとって必要不可欠なものとなっています。そのためにも、企業はステークホルダーマネジメントに力を入れ、ステークホルダーエンゲージメントを高めていかなければなりません。
ステークホルダーマネジメントとは、自社に対するステークホルダーを把握し、それらを管理していくこと。自社にはどのようなステークホルダーがいて、どのようなニーズを持っているのかを把握し、それぞれと良好な関係を築いていくことが重要です。また、特定のステークホルダーの要望にのみに偏らず、幅広いステークホルダーとの関係を密接にしていくこともポイントです。
ステークホルダーエンゲージメントとは、企業に対するステークホルダーの信頼や価値を示す指標のこと。ステークホルダーエンゲージメントが高い企業は、それだけステークホルダーから信頼を得ている証となります。
企業が各ステークホルダーの要望やニーズに応えることが、ステークホルダーエンゲージメントを向上させます。そのためにも、各ステークホルダーに企業理念を浸透させ、しっかりコミュニケーションをとることが重要です。
ステークホルダーを重視した取り組み事例
ステークホルダーを重視した取り組みには、以下のようなものがあります。
【株主総会や定期的な連絡会】
株主や出資者に、自社の魅力や企業理念、今後の方針などを伝えることができる。株主とのコミュニケーションの場にもなる。
【SDGs ・CSR活動の強化】
社会貢献活動を行うことで、企業のイメージや信頼を向上させられる。
【ユーザー参加型の商品開発】
顧客の意見やフィードバックを取り入れて商品やサービスを開発する。企業のファン、開発の透明性を示すことができる。
【従業員参加型の環境改善】
従業員にアンケートを取り、働く上での意識を調査する。要望を聞くことで、それぞれに合った働き方を提供できる。
例として、株式会社良品計画の取り組みを見てみましょう。
無印良品ブランドを展開する良品計画では、ステークホルダーに対して様々に取り組みを行っています。
例えば、株主のみが参加できるファンミーティング。2024年度には、鴨川の天水棚田で有機米の田植え体験を実施しました。株主との接点を作ることで、より親密なコミュニケーションがでる上、自社の企業理念や魅力をよりこまかく伝えることができます。
また、企業全体で様々なSDGsの問題にも取り組んでいます。店舗ではプラスチックごみ削減の一環として、使い終わった化粧水や乳液のボトルなどを回収する「PET素材回収リサイクル」などを行っています。爆発的ヒット商品となった「体にフィットするソファ」も、ステークホルダー重視の姿勢から生まれたもの。ユーザー参加型の商品開発として発売された同商品は、顧客が自由に投稿できるサイトのアイデアを中心に、ユーザーの意見を取り入れながら開発されました。
まとめ
ステークホルダーとの良好な関係構築は、企業が成長し続けていく上で欠かせないもの。ステークホルダーを重要視することで、企業価値が向上し、リスクの管理が容易になります。また、SDGsやCSR活動においても、ステークホルダーとの連携が必要不可欠となっています。
自社の利益や、株主など特定のステークホルダー重要視だけでなく、幅広いステークホルダーの利益を考慮することが、企業の成長やブランド力向上につながります。