M&Aストーリー
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M&Aストーリー
株式会社マルタニ工業
M&A成約事例
譲渡企業
株式会社マルタニ工業
代表取締役 谷口 竜次氏 インタビュー
「実は10年近く前に一度、大きな会社の傘下に入ったことがあるんですよ。社員にきちんと社会保険をかけてあげたかったのが理由です。福利厚生は会社の基本ですからね」と話すのは、株式会社マルタニ工業の代表取締役社長、谷口竜次氏だ。
平成19年に設立されたマルタニ工業は、地元で一般土木や解体工事、除雪作業などを担う。
この北海道富良野市にある従業員数35名の会社が、今回のM&Aの舞台となった。
谷口氏が同社の経営を引き継いだのは、会社設立から5年経った平成24年だ。
「もともと別の方が経営していたのですが、問題が発生して辞任されたんですよ。そこで私にお鉢が回ってきて。過去、私の父が経営する会社が倒産してしまい経済的に苦しい時期がありましたが、それでも自分で会社を作って頑張ろうと考えていたんです。これはチャンスだと思って引き受けました」と谷口氏は述懐する。
地元出身の谷口氏は幼少期、プロレスラーを夢見て中学まで空手の道場に通っていたものの、最終的には断念。社会に出てからは特に志もなく、職を転々とする。
「このままじゃ駄目だと思っていたところに偶然、中学時代の空手の恩師と再会したんですよ。心を引き締めるために再び空手を始めました。会社を引き継ぐまでの10年ほどは、サラリーマンをしながら道場の子どもたちも指導していたんです」と谷口氏は笑う。
それまでサラリーマンの経験しかなく、会社経営はゼロからのスタートとなった谷口氏。
社長就任後は経営関係の知識を独学で習得し、社会保険や経理などの業務を全てこなしていく。
経営においてはさまざまな出来事に遭遇するも、特に谷口氏の頭を悩ませていたのが、従業員の福利厚生だった。
近年、建設業界では社会保険への加入圧力が強まっている中で、当時のマルタニ工業は従業員に社会保険をかける資金を捻出できずにいたのだ。
谷口氏は、打開策として「大きな会社の傘下に入って皆を守ろう」と考えるようになる。
「実は一度、同業他社に傘下入りしたことがあるんですよ。社内からは反発が出ましたが、自分たちの福利厚生を整えるためだからと押し切りました」と谷口氏は打ち明ける。
マルタニ工業の従業員は外部からの評判がよく、谷口氏はそれを売りに、仕事を斡旋してくれていた企業に会社の買収を持ちかけたのだ。
相手も現場で稼ぐ従業員を欲していたため提案は受け入れられ、平成27年、マルタニ工業は隣町の大きな同業他社に傘下入りする。
ところが、傘下入りを仲立ちした相手企業の担当者が解任されたため、会社はほどなく相手企業と袂を分かつことになってしまう。
「私としてはお世話になったその人についていく方針だったので、相手企業の役員に頼み込んで何とか会社を買い戻しました。元には戻りましたが勉強になったし、彼らのネームバリューのおかげで我々の名前が売れて取引先も増えたので、傘下入りは無駄ではなかったですよ」と谷口氏は当時を振り返る。
元の社員も全員が戻り、再び単独で歩み出したマルタニ工業。
その後は経営が軌道に乗って業績も回復していくが、今度は電話が3分に1回かかってくるほど忙しくなり、谷口氏は体が持たないと感じるようになる。
「とにかく体がしんどくて。燃え尽き症候群っていうのか、歳を重ねて馬力がなくなってきたと痛感しました。このまま経営を続けられるのか非常に不安でしたが、従業員のことを考えると簡単には辞められなかったんです」と、谷口氏は率直に話す。
そんな時にかかってきた1本の電話が、マルタニ工業の運命を変えた。
「以前からM&Aの営業はいくつかあったんですが、全て断っていました。だけど、M&Aベストパートナーズ(以下MABP)の新榮氏から電話を受けた時は、たまたま時間が空いていて。話を聞いてみることにしたんですよ」と谷口氏は言う。
前回の傘下入りでは仲介会社の存在すら知らず、登記などの手続きは相手の会社に任せていた谷口氏。そこで改めてM&Aを勉強するべく、令和5年3月にMABP担当アドバイザーの新榮と面会する。
「新榮さんの面会では初めこそ警戒していたものの、若い割にいろんな質問に淀みなく答えてくれたので、次第に腹を割って話すようになったんです。その場で『実はM&Aを考えているんだ』と打ち明け、新榮氏にお任せしました。契約までに10回ほどお会いしましたが、彼はとにかく雑談が面白くて。我々が経験したことのないような話をしてくれるので、来社を心待ちにしていましたよ」と谷口氏は振り返る。
面会を重ねた結果、新榮は谷口氏や従業員との相性を考慮した上で、富良野市から車で2時間、帯広市に本拠を構える株式会社伊豆倉組を紹介した。
「大学卒業後は世界一周に行くつもりだったんですよ。資金も必死に貯めてたんですけどね」
そう言って笑うのは、マルタニ工業と初のM&Aを果たした伊豆倉組の常務取締役、伊豆倉鈴雄(いずくられお)氏だ。
昭和14年創業の伊豆倉組は、マルタニ工業と同様に一般土木工事業を営んでおり、売上の7〜8割を占める公共事業のほか民間工事も請け負う。
代表取締役社長のご令息でもある伊豆倉氏は、今でこそ伊豆倉組で経営方針のほか、企画や予算管理、人事などのマネジメントを担っているが、かつては父親の会社を継ぐ意思がなかった。
1年かけて準備を進めていた世界一周で『ここで生きたい』と思える地域を見つけ、自分なりに事業を興すつもりだったのだ。
そんな伊豆倉氏の運命は、飛行機便を1ヶ月前に控えたタイミングで一変する。
「出発直前に父とサシ飲みしたんですよ。そこで『行かないで欲しい』と言われまして。初めて自分の進路について言及されたんで、嬉しかったんですね。二つ返事で『分かりました、旅には出ません』と伝えました。すると父から『会社に入れ』と誘われて」と伊豆倉氏は目を細める。
入社後は「施工管理補佐」の肩書で現場の見習いを経験し、3年目からは現場を離れて経営に携わるようになった。6年目には初めて役職がつく。
経営に関与する中で、伊豆倉氏は直営部隊がいないことが自社の弱みだと分析していた。
実際に受注した工事のうち、実に95%が外注で利益率が非常に低かったのだ。
現状を打破するため模索していたところ、受講中の経営塾でM&Aを知った。
「塾ではさまざまな講義がありましたが、特にM&Aは興味を引く内容で非常に面白く、前のめりになって勉強しました」という伊豆倉氏は、すぐに行動を起こす。
さまざまな方面に「いい話があったらぜひ教えて欲しい」と打診していく中、巡り合ったのがMABPの新榮が担当するマルタニ工業だった。
令和5年9月、伊豆倉氏と谷口氏は初めて顔を合わせる。
伊豆倉氏は、この時の印象について「労務会社の社長さんは、いかつい・おっかないイメージがあったんですが、谷口氏には会社の入口から丁寧に応対してもらい、優しそうな方だと感じました。お話をしていく中でも、誠実で信用できると思いましたね」と振り返る。
谷口氏も「初対面でしたが、伊豆倉氏はずっとにこやかな笑顔で話しやすかったです。それまでも、MABPの新榮氏に別の会社を紹介してもらったり、いくつかの企業さんに探りを入れてもらったりしていましたが、面談前から、伊豆倉組さんにはご縁を感じていたんです。思った通りでしたよ」とはにかんだ。
ノウハウを共有してもらえるような提携先を探す伊豆倉組にとって、マルタニ工業は条件にピッタリな相手だった。
その後の交渉も順調に進み、同年12月1日に再びTOP同士の面談を行った上で、翌年2月20日に無事、M&Aの契約を結ぶ。
「何より、伊豆倉組さんの投資に見合った仕事をしていきたいですね。私が身を引くまでには、何らかの成果を残したいと思っています」M&Aを終えた谷口氏は、そう決意を新たにする。
さらに谷口氏は「伊豆倉組さんには今、旭川管轄の仕事を任されています。また、並行して東北地方に20人ほどの従業員が出稼ぎに行っていますが、11〜12月は閑散期で仕事が落ち着いてしまうんですよ。そこで、少し遠方ですが雪の少ない帯広地方の仕事を、ぜひお手伝いしたいですね」と明るい表情で続けた。
一方の伊豆倉氏は「マルタニ工業さんとの提携をフックに、まずは中期計画に盛り込んだ直営工事に注力したいですね。今は直営班が0.5班あるかないかという状況でしたが、これを1班2班と増やしていき、最終的には3班体制にまで拡大する予定です。順調にいけば、令和8年ごろを目標にさらなるM&Aにチャレンジして、会社を大きくしていきます」と、これからの展望を語る。
また、今回のM&Aを担当したMABPの新榮について、伊豆倉氏は「初対面はリモートでしたが、第一印象は率直に『お若い方だ』と感じました。M&Aはとても大きなお仕事なので、もっと40代のバリバリな方が来ると思っていたので。M&Aの過程では、新榮氏のレスポンスの早さに驚きました。こちらの要望に対して、数分から数十分後には資料が送られてくるんですよ。今までにないスピード感で、とてもやりやすかったです。他にもいろいろとサポートしてもらいました」と、その仕事ぶりを絶賛した。
その新榮は「マルタニ工業の谷口氏とは1本の電話でつながり、M&Aのご依頼をお受けしました。私としては、仲介会社としてどういった付加価値が出せるかということを念頭に置き、お相手の企業を検討しました」と振り返る。
さらに「谷口氏も伊豆倉氏も本当にお人柄がよく、コミュニケーションがとてもスムーズで、私も非常に動きやすかったです。両社はそれぞれに経営課題を抱えていましたが、お互いに補完し合えて価値あるM&Aだと、面接時から強く感じていました。実は、新榮という名字は帯広にルーツがあって、不思議な縁も感じていたんです。最終的に伊豆倉組さんとのご縁を取り持つことができて、本当にうれしかったですね」と締めくくった。
このM&Aによって、マルタニ工業と伊豆倉組は今後ますます活躍されるであろう。
MABPとしては引き続き、両社の推移を見守りつつ、いずれは発展後のストーリーを伺いたい
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
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