インフラ再生と人材の強化、新たな柱事業を拡充

インフラ再生と人材の強化、新たな柱事業を拡充

横山産業 株式会社
常務取締役総務部長
門田 誠一氏
取締役兼インフラ再生事業部長 重松 伸也氏

M&Aを牽引する両氏の幅広いキャリアと、今に活きる専門性

M&Aを牽引する両氏の幅広いキャリアと、今に活きる専門性

左:取締役兼インフラ再生事業部長 重松伸也氏
右:常務取締役総務部長 門田誠一氏

早速ですが、横山産業株式会社で取締役兼インフラ再生事業部長を務めておられます、重松伸也(しげまつ・しんや)氏のご経歴をお聞かせいただけますか。

重松:横山産業には2023年1月にインフラ再生事業部長として着任しましたが、もともとは橋梁の設計に15年ほど携わっていまして、いわゆる技術畑出身です。
設計を離れてからは、建設系ホールディングス企業の会計担当や子会社社長、建設コンサルタント会社の総務人事部長などを経験しまして、直近では橋梁補修工事を担う会社で技術部長を務めていました。
横山産業では設計者時代の経験を活かして、橋梁の補修・補強・保全に技術的な知見を踏まえながら取り組んでいます。設計を知らないと補修はできませんからね。
先輩や自分が若い頃に設計した橋が老朽化してきていることが、ずっと気になっていまして。
当時は半永久的に使用できると思われていたんですが、今はコンクリートには寿命があると分かっています。そのため、自分が培った技術を持ってきちんと直さなければと常々思っていたところに、横山産業から運良く声がかかったんです。
現在は、M&Aで譲り受けたグループ会社の株式会社横浜システックでも、取締役会長を務めています。


ありがとうございます。もうお一方、同じく横山産業株式会社で常務取締役総務部長を務めておられます、門田誠一(かどた・せいいち)氏にもご経歴を伺ってもよろしいでしょうか。

門田:私は1984年、株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)に新卒で入社して、近畿圏で分譲マンションの販売事業に携わっていました。
銀行から土地情報をもらってマンション開発に結びつける仕事で、12年ほど務めました。
バブル崩壊を機に東京に移ってからは不動産開発に従事していましたが、ある時、投資案件となるゴルフ場を仕上げて欲しいという依頼が入りました。ちょうど、外資のファンドが日本に投資しはじめた時期だったんです。そのまま買主だったパシフィックゴルフマネジメント株式会社に転職し、いくつかの買収案件を担当しました。
さらに株式会社アイランドゴルフに移ってからは、20を超えるコース買収案件と再生事業に携わりました。ここでの経験が、横山産業で活かされることになるんですよ。
2020年1月に入社した横山産業では現在、常務取締役総務部長として、M&A案件を中心にさまざまな仕事を担当しています。

経営安定化のため、M&Aで三本目の事業軸確立へ

経営安定化のため、M&Aで三本目の事業軸確立へ
2022年12月、株式会社横浜システックをM&Aでグループ化されました。M&Aベストパートナーズ(以下MABP)が仲介いたしましたが、その経緯を教えていただけますか。

門田:2022年の正月明けに、弊社の代表取締役会長である横山靖之(よこやま・やすゆき)から「三本目の事業を模索して欲しい」と指示されました。実はその半年前、横山会長の子息で会社を継いでいた横山一也(よこやま・かずや)さんが急死して。やむなく横山会長が経営に復帰したんですが、若い頃から思い描いていた「経営を多角化してコングロマリットを創る」という夢を実現しようと思い立ったそうです。
これまでにもいろいろとチャレンジしたのですが、時代の荒波に揉まれて結局残ったのは生コン事業と不動産事業の2つだけでした。ご存知の通り、不動産事業は景気の波をかぶります。現にリーマンショックの時は赤字でした。そのような理由で、安定した新事業が欲しかったんです。


横浜システックとのM&Aには、そんな背景があったんですね。

門田:自社の事業と親和性が高く、ドメスティックで安定している事業にターゲットを絞りました。いろいろと検討していく中で、老朽化している橋梁やトンネル、港湾、空港といった主要インフラを修繕・補修する事業にたどり着いたんです。私は阪神・淡路大震災を経験した時、高速道路の橋梁が倒れている風景が記憶として残っていたので、この事業なら南海トラフ巨大地震がきた時でも被害を少なくできるとも考えました。
そこで『関連企業を買収して主要インフラを補修するスペシャリスト集団を作り、大地震が来た時に直しに行く』というイメージで企画書を作成したところ、横山会長から「面白いじゃない、ぜひ進めてください」と一言で快諾をもらえたんです。


業種が決まった後、横浜システックを選んだポイントを教えていただけますか。

門田:それが、最初は別の会社に目星をつけていたんですよ。独自の工法を持ち非常に魅力的な会社だったんですが、残念ながら補修には向かないため断念しました。株の変遷も複雑で、連絡の取れない出資者が隠れているなどの不安要素もありましたね。
そんな時にMABPの永沢アドバイザーから紹介されたのが、横浜システックだったんです。幸運なことに、彼らは補修に優れた技術を持っていました。

重松:横浜システックは、日本トップクラスの技術と補修工事量を持つ大手建設会社から独立してきた人たちが作った会社です。とにかく技術ベースがしっかりしている会社で、我々と合同すればさらに規模を拡大できると思いました。我々と目指す方向性が一致していたことも大きかったですね。
最終的には横浜システックを買収して、三本目の事業軸確立を目指しました。

独自の取り組みで、買収企業のアップサイドを追求する

独自の取り組みで、買収企業のアップサイドを追求する
買収した横浜システックでは、どんな施策を打ったのでしょうか。

重松:横浜システックがM&Aに踏み切ったのは、採用ができず人手不足で成長に限界を感じたことも理由の一つと聞いています。社内教育体制を作って未経験者を育てるという方法もありますが、資金と体力が必要です。そこでまず、我々のノウハウを活かして積極的に採用活動を展開したところ、この1年間で横浜システックは大成功しました。
今の若い方は「社会に貢献したい」と考えている人が多いので、我々は「横浜システックなら存分に社会貢献できる」と猛アピールしています。「横浜システックは、世界でも有数の大型建造物を後世に残す技術を持っています。1日に10万台以上が走る東名高速道路や、年間1億人を運ぶ新幹線などにかかる橋の下に潜って補修する会社だ。こんなに社会貢献している会社はない」と説明すると、男女を問わず「私もぜひやりたい」と我々の方に来てくれました。
昨年は10数名ほど採用したんですが、そのほとんどが無事に「二級土木施工管理技士(1次試験)」に合格しました。今年はさらに上の「一級土木施工管理技士(1次試験)」を目指して勉強中です。


懸案だった人員不足が解消しつつあるんですね。求人募集のメインは新卒でしょうか。

門田:基本的に20~30代前半の中途採用で、新卒は採っていません。いわゆる「第二新卒」の人たちを拾い上げて、技術的なことはもちろん、社会常識やビジネスマナーまで教育しているんですよ。
新卒の有望な学生は皆、名だたるゼネコンに行ってしまいます。可能性的にも、新卒はネームバリューがない中小では厳しいですね。補修工事は地味で辛い仕事なので、新卒はすぐに辞めてしまうという側面もあります。その点、中途採用者はタフですから。事実、横浜システックにおける新入社員の残留率は、建設業界的にも高い数値をキープしています。

重松:我々の会社はインフラを再生していますが、人材も強化しています。そうしないと、日本の社会インフラは後世に残せません。なぜなら、ゼネコンの下で実際の工事をしている我々がいないと日本のインフラは直せないんですよ。
一方で、我々も元請けはやりません。元請けのゼネコンの元、損傷状況の調査・診断、使用材料・工法を検証し、施工技術と施工管理能力をしっかり提供する。これが、横浜システックならではのビジネスモデルですね。


インフラも人材も再生する!すばらしい取り組みです。設備投資などはされましたか。

門田:採用活動と並行して、大きな補修工事ができる機械に思い切って投資しました。
高圧のウォータージェットでコンクリートをはつる(表面を削ったり穴を開けたりする作業)機械で、お客様のご要望に応えるべくアタッチメントを含めてフルセットで購入しましたから、投資額は億を軽く超えましたね。ただ、普通に使えば10年は持ちますし、投資回収も4〜5年で済むでしょう。

重松:財務状況を考えると、横浜システックの規模では難しい投資でしたが「買ったら仕事が広がる」との思いから、グループとして購入しました。この機械はNEXCO等で広く使用され現場工事が多いことから工期が遅れる原因にもなっているんですよ。
実際に買ってからはいろんな方面から引き合いがあり、自己所有ですから施工価格もこちらで決められるようになって収益性が大きく改善します。まさしく資本力の差で、M&Aの成果ですね。

門田:はつった後に、削った部分を新しいセメントで直していく機械も導入を計画しています。工程を省略できる新しい機械が日本にあって、数千万円するものですがすでに2台を注文済みです。稼働開始となれば、施工効率は3倍になると見込んでいます。


資本力の強化で大きな投資が可能になって、効率も収益も改善できたのですね。横浜システックの既存社員に対しては、どんなテコ入れをしたのでしょうか。

重松:社内教育に力を入れました。会社の資産は人ですから、強い組織を作るには人を太くしていくしかありません。そこで、幹部を含めた全ての社員に対して、参加者の主体性を重視した体験型のワークショップを展開しました。ファシリテーターは外部のプロにお願いしましたが、そこでのリアクションを通じて社員のマインドが高まってきているのが分かりますね。
横浜システックの代表取締役社長の菅一仁(すが・かずひと)氏も、全社員の前で「若手が入るようになって次の道が開け始めた。幹部社員もワークショップによって成長が見受けられる」と発言されていて、研修の成果を実感されているようです。

門田:我々と一緒になっていなかったら、これらの施策は打てなかったでしょう。お金をかけないといけませんので、採用活動と同様に体力が必要ですから。採用も大事ですが、やはり教育だと思います。研修を覗いてみましたが本当にいい内容で、私自身も受けたいと思いましたよ。

重松:取締役から新入社員まで、全て教育・育成ですよ。これは普通のM&Aで譲り受ける会社にはない、我々オリジナルの取り組みです。譲り受けた後、本体からつなぎ役として1人ほど派遣して置くだけといった会社が多いですが、それでは面白くありません。率先垂範で、私も日々勉強しています。

今後もグループ内で、お互いの相乗効果を高めていく

今後もグループ内で、お互いの相乗効果を高めていく
採用、設備投資、そして社員教育という3つの施策は、横浜システックをどう変えましたか。

重松:設備投資はもちろん、採用活動には非常に大きな費用を使いましたが、1人雇って一人前にするだけでそれを大幅に上回る利益が出ていて、すぐに回収できています。通常、1人育成するのには3〜4年はかかりますが、1年経った今でこの状況ですから3年後が非常に楽しみです。
また、横浜システックの菅社長が事業面、我々が経営基盤の強化をする役割分断が整いつつあります。M&Aが上手く合致しましたね。結果、2023年の秋口あたりから急激に受注が伸びたんですよ

門田:研修の成果も上々です。社内教育制度(アカデミー)から現場に送り出した中途採用社員は、各方面に極めて評判がいいんですよ。おかげでベテラン社員は抱えている業務を彼らに任せて、新たな仕事に取り組めるようになりました。
既存社員の成長も著しく、例えば「早く横浜に帰りたい」と不満を口にしていた名古屋の幹部社員が1年の研修を経て「ここに骨を埋める」と言うようになるなど、変化が起こっています。
菅社長ご自身も事業・営業に注力できるようになって、役割分担がすごくよく回っていますね。


貴重なお話、ありがとうございました。最後に、今後の展望を教えていただけますか。

重松:採用活動については、今後はネット上の発信にも注力していきます。一般的な産業ではなく採用希望者がどれだけ来るのかは未知数だったので、躊躇していたんですよ。今のやり方に加えてもう一軸欲しいので、今年中に採用者向けのサイトに作り変えた上で、SNSも展開しようと考えています。上手くいけば、採用力アップが期待できますね。
また、横山産業グループには京都と埼玉に拠点を持つ株式会社アクト・ファクトリーや、兵庫を中心に事業を展開する株式会社司興業があります。横浜システックと含めて、日本全国の補修工事を網羅する勢いです。もう2〜3年経てば、横山産業グループがいないと補修工事ができなくなるかもしれませんね(笑)。

門田:1社目から横浜システックを買えたのは、本当にラッキーでした。アクト・ファクトリーや司興業も、横浜システックと同様にMABPさんの仲介でグループ入りした会社です。全てMABPさんのおかげですね。グループ会社3つのM&Aに携わってもらった功労賞として、ぜひ社員総会で表彰させてほしいです。


ありがとうございます。お声がけいただければ、喜んで馳せ参じます。

重松:実は他にもM&A話があるのですが、事業が重なるので断っています。我々は規模を大きくしたいわけだけではなく、社会課題を解決するためお互いに相乗効果が出るような組み合わせを目指しているからです。
司興業は財務状況が安定していて鉄道に強い。アクト・ファクトリーはいろんな事業があって社員数も多く、まだまだアップサイドを狙える会社でこちらも面白い。M&Aで買収したそれぞれの企業は、グループ内における役割が明確になっていますね。

次の事業拡充はもう少し先となりそうですが、これからの成長も楽しみですね!

重松:そうですね、今はとにかく採用と教育に注力します。優秀な技術者を輩出しつつ、いい機械も買っていきたいですね。

COMPANY INFO会社情報

企業名
横山産業 株式会社
代表者
三宅 薫
所在地
〒121-0807 東京都足立区伊興本町1-12-4
設立
昭和39年10月1日
事業内容
生コンクリート事業、不動産事業、インフラ再生事業
ホームページ
https://yokoyama-group.com/