父から引き継いだデザインの仕事。チームと共に、人々の心に響くデザインを目指す。

父から引き継いだデザインの仕事。チームと共に、人々の心に響くデザインを目指す。

株式会社 粟辻デザイン
代表取締役
粟辻 美早氏

アメリカでデザインを学び、父の病をきっかけに帰国。引き継いだデザイン事務所

アメリカでデザインを学び、父の病をきっかけに帰国。引き継いだデザイン事務所

株式会社粟辻デザインを経営されているグラフィックデザイナーの粟辻美早(あわつじ・みさ)氏に伺います。
まずはこれまでの経歴について教えていただけますか?

はい。多摩美術大学のグラフィックデザイン科を卒業後、1989年にアメリカに渡り修士号を取得しました。卒業後、サンフランシスコのTAMOTSU YAGI DESIGNで4年間勤務し、デザインの経験を積みました。そして帰国後の1995年に妹の麻喜と共に株式会社粟辻デザインを設立しました。


アメリカでのキャリアを続けたい気持ちもあった中で、帰国するきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけは父の病気です。
あと数年は、海外で仕事の経験を積みたいという気持ちはありましたが、
命に関わる状況だったので帰国することに決めました。


帰国後はどのように過ごされたのですか?

とにかく父との時間を大切に過ごしました。
一緒に仕事をする機会を持ちたかったので、自分の仕事を始める一方で、父の事務所を手伝いました。
しかし、父は一年も経たないうちに亡くなり、その後、私は事務所を引き継ぐことになりました。
全ての出来事があまりにも急速に進んでしまい、家族にとって本当に苦しい時期でした。


引き継いだ後、どのように事務所を運営していったのでしょうか?

父の事務所は主にテキスタイルデザインを手がけていました。最初の一年間はテキスタイルの仕事を続けつつ、徐々にグラフィックデザイン事務所へと移行していったのです。


妹の麻喜さんもジョインされたとのことですが、その経緯を教えてください。

妹はインテリアデザインの事務所で働いていました。以前から一緒に何かやりたいとは話していたものの、
具体的な将来の仕事については明確ではありませんでした。
しかし、父の死をきっかけに、空間デザインも含めた総合的なデザイン事務所を立ち上げたいという思いがいたしました。
こうして、姉妹でチームを組んで新たなスタートを切ることになりました。


日本のデザイン業界において、どのようにして仕事を広げていったのですか?

最初は日本のやり方に戸惑いもありましたが、人との繋がりが大きな力となりました。
アメリカでのクライアントや妹の人脈からプロジェクトが次々と生まれ、徐々に仕事が広がっていきました。ありがたいことに、営業することはありませんでした。


人との繋がりから仕事を広げるというのは素敵ですね。

本当に感謝しています。
今ではインターネットを通じて海外からも仕事が舞い込む時代となりましたが、当時はまだそのような状況ではなく、すべてが人との繋がりから仕事が生まれていました。
ひとつひとつの仕事が次に繋がっていく為、とにかく毎回全力で取り組みました。
もちろん失敗もしましたが、失敗があったからこそ得るものもすごく多かったです。
失敗から得たものが次の成功の糧となり、信頼関係を築いていくことができたのだと思います。

デザインがあふれる世の中で、新しい感動を生み出し続ける難しさ。目指すのは“三方よし”

デザインがあふれる世の中で、新しい感動を生み出し続ける難しさ。目指すのは“三方よし”
デザインがあふれる世の中で、新しい感動を生み出し続ける難しさ。目指すのは“三方よし”
これまでに手がけた企業やブランド、商品について教えていただけますか?

ショップなどのブランディングデザインのほか、ホテルグラフィックやパッケージなどグラフィックデザインを中心に、サイン、空間プロデュースまで幅広く活動しています。どのプロジェクトもクライアントやチームと連携し、一緒に目指すべきゴールを共有しながら進めてきました。


現在デザインがあふれる世の中でもあると思います。新しい感動を生み出し続けるのは難しいと感じますか?

そうですね。
今や情報が溢れ、コンピューターを開けば新しいデザインやアイデアがすぐに目に入ります。
頭の中で考えることも、既に世の中にたくさん存在しており、そこから新たな感動を生み出すデザインを提案できるか、という点で、いつも悩んでいます。


具体的にはどのような苦労がありますか?

例えば、ネットで見たデザインが自分たちの提案に影響を与えることがあります。
そういったことがないように、常にオリジナルで新しい提案を目指すのには大変な労力が必要です。


では、どのようにして独自性を保っているのですか?

デザインを完成させるまで、何度も試行錯誤を繰り返しています。そして、デザインが独り歩きしないように、クライアントや消費者の声を大切にしています。優れたデザインを提供するだけでなく、クライアントが喜び、消費者の注目を集めることを目指しています。私たちは常に「三方よし」を追求し、デザイナー、クライアント、消費者が一致するとき、それが私たちの最高の瞬間だと考えています。


“三方よし”の状態を目指すというのは素晴らしいですね。

そうですね。
デザインの専門家である私たちも、マーケティングや業界の専門知識には詳しくありません。
クライアントからの情報や見解を得ることで、デザインに新たなアプローチが見えてくることがあります。
デザインだけが先走っても、クライアントや消費者の期待に応えられなければ意味がありません。
私たちはリレーのようなチームワークを重視しています。クライアントからバトンを受け取り、
私たちが中間走者として役割を果たし、最終的には消費者にバトンを渡します。
一人で完璧なものを求めるのではなく、チームで共有しながら成功を目指すことが私たちの理想です。

粟辻デザインの強みは、みんなでアイデアを作り出すこと。 料理を通じて共有し合う

粟辻デザインの強みは、みんなでアイデアを作り出すこと。 料理を通じて共有し合う
粟辻デザインの強みは、みんなでアイデアを作り出すこと。 料理を通じて共有し合う
粟辻姉妹のおふたりの役割について教えていただけますか?

私たちの役割分担は、はっきりしています。
私はコミュニケーション担当で、クライアントとの打ち合わせで彼らの考え方や要望を引き出します。
一方、妹は、プロジェクト全体を俯瞰し、デザインの方向性を決定する役割を担っています。
私がクライアントと話をしている間に、妹は早くもアイデアスケッチを始めていることがよくあります。


粟辻デザインはどのようなチームとして機能しているのですか?

私たちは粟辻デザインという1つのチームとして活動しています。スタッフは全員デザイナーであり、
お互いに意見を出し合いながらプロジェクトを進めています。
プロジェクトごとにメンバーを選んでチームを組み、私と妹がリーダーとして立ち、すべてのプロジェクトに参加します


具体的に、どのようにしてアイディアを出し合っているのですか?

クライアントさんとの打ち合わせが終わった後、妹が大まかな方向性を提案し、それをもとにスタッフと一緒にディスカッションを重ねます。
一般的なデザイン事務所だと、どうしてもトップがデザインを考えるイメージがあるかもしれませんが、うちではスタッフ全員が自分の視点から意見を出し合い、それを集約して最終的なデザインに仕上げていきます。ゼロから皆で作り上げるのは時間がかかりますが、それぞれのアイディアが融合することで、より良いデザインが生まれるのです。


粟辻デザインのもう1つの特徴として、料理にもこだわっていると伺いましたが、それについて教えてください。

そうですね。
設立以来、スタッフと一緒に食卓を囲むことを大切にしてきました。母は25年以上夕食を作り続けてくれましたが、90歳を迎え、毎日作るのは難しくなりました。また、家庭のあるスタッフも増え、状況も変わってきています。頻度は減りましたが、料理を作り、みんなと食事をすることはこれからも続けていきたいと思っています。食事の時間はお互いの考えを共有する貴重な場だからです。


料理がデザインにどのように影響を与えているのですか?

料理を通じてデザインについても多くのことを学べます。例えば、料理の盛り付け一つを取っても、どのお皿にどのように盛るかを考えることでディスプレイのセンスが養われるだけでなく、人に喜びを与える経験が積み重なります。また、料理を作る過程でのチームワークやコミュニケーションは、デザインプロジェクトの進行にも良い影響を与えます。デザインは単にコンピューター上で作業するだけでなく、日常生活の中からも多くのインスピレーションを得ることが必要です。

デザインを愛するスタッフとともに、今目の前にある仕事に対して誠実に

デザインを愛するスタッフとともに、今目の前にある仕事に対して誠実に
デザインを愛するスタッフとともに、今目の前にある仕事に対して誠実に
粟辻氏のスタッフに対する思いについて教えていただけますか?

スタッフのほとんどが、退職後もデザインの仕事を続けています。
結婚や家庭の事情で事務所を辞めた人もいますが、その多くがデザインの分野で活動を続けていることに、とても嬉しく思います。
クリエイティブな分野は一時的なものではなく、一生続けられるものです。だからこそ、長く続けられるこの分野の魅力を感じて、粟辻デザインで活躍して欲しいと願っています。


それは素晴らしいですね。スタッフがデザインを続けたいと思う理由はなんだと思いますか?

みんなデザインが好きなんですよね。デザインは特別なものではなく、日常の中のあらゆるものからクリエイティブな情報を吸収できます。
例えば、毎日歩く道やお店、食事などから得られるインスピレーションもデザインに活かせます。
そうした日常の学びが、デザインに対してずっと興味を持ち続ける原動力になっているのだと思います。
私の願いは、スタッフがデザインの世界にずっと関わり続け、常に新しい発見やアイデアを追求していくことです。


最後に、今後の展望について教えてください。

難しいですね……。
あまり考えたことがないかもしれません。
「目の前のことで精一杯」と妹とよく話しています。
今後も、これまで積み重ねてきた仕事に真摯に向き合いながら、新しいアイデアを提案していくことしかありません。
コロナの影響も薄れ、新たな仕事のチャンスも増えてきています。新しいプロジェクトに全力で取り組むことも重要ですが、これまでの仕事を大切にすることがまずは最優先ですね。
すべての仕事に全力で向き合うことで、新たな挑戦にも情熱を注げると信じています。
これがデザイナーとしての責任であり、今後もその姿勢を貫いていきたいと思っています。


ありがとうございました。

COMPANY INFO会社情報

企業名
株式会社 粟辻デザイン
代表者
粟辻 美早
所在地
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-21-1
設立
1995年9月1日
事業内容
グラフィックデザイン
ホームページ
https://www.awatsujidesign.com/